シルミド/SILMIDO(2003年)







DATE

実尾島/韓国

監督:カン・ウソク


<主なキャスト>

チェ・ジェヒョン(韓国空軍准尉・684部隊訓練隊隊長):アン・ソンギ
カン・インチャン(684部隊第3班長):ソル・ギョング
チョ2曹(韓国空軍兵):ホ・ジュノ
ハン・サンピル(684部隊第1班長):チョン・ジェヨン
ウォニ(684部隊第1班員):イム・ウォニ
チョ・クンジェ(684部隊第2班長):カン・シニル
パク2曹(韓国空軍兵):イ・ジョンホン
チャンソク(684部隊炊事係):カン・ソンジン
ウォンサン(684部隊隊員):オム・テウン
                   ……etc



目次


『シルミド/SILMIDO(2003年)』の作品解説

キーワード『実尾島(シルミド)事件(1971年)』

『シルミド/SILMIDO(2003年)』のストーリー

『シルミド/SILMIDO(2003年)』の感想

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【作品解説】

 日本では2004年6月に劇場公開された韓国映画。1971年8月に韓国で発生した北朝鮮への潜入・金日成暗殺のために結成された特殊部隊による反乱事件を基にした、べク・ドンホの同名小説の映画化作品。事件は韓国の民主化が成されるまで1000万人以上の観客動員を記録する大ヒットとなった。



【実尾島(シルミド)事件(1971年)】

 1968年1月21日、韓国軍部隊に扮して武装した朝鮮人民軍第124部隊の31名が、韓国の首都ソウルに侵入し、青瓦台(韓国大統領官邸)を襲撃し朴正煕(パクチョンヒ)大統領を暗殺しようとした(青瓦台事件)。しかし、韓国当局はゲリラ情報を受けて警戒をしていた。北朝鮮兵士は青瓦台から1㎞弱のあたりまで接近するも韓国当局が行っていた検問に阻まれ、自動小銃を乱射して逃走した。北朝鮮兵士の突入は阻止され、2週間にわたる韓国軍と警察による掃討作戦によって1名が逮捕、29名が射殺され、1名が自爆した。射殺されたのは27名で、2名は北朝鮮に逃亡したという説もある。韓国側にも軍人や警察官、巻き添えとなった民間人68名が死亡したとされる。逮捕された金新朝少尉はテレビカメラに向かって「私は朴正煕の首を取りにやってきた」と発言し、韓国社会に大きな衝撃を与えた。

 当時の韓国の朴大統領は憤り軍事報復を決意し、当時のアメリカ大統領リンドン・B・ジョンソンにも軍事報復を求める書簡を送った。直後の1月23日に北朝鮮によってアメリカ海軍の情報収集艦「プエブロ号」が拿捕される事件が起こる。乗員の早期解放を求めて空母の派遣などを行ったアメリカの姿勢により、第二次朝鮮戦争の勃発もありうると緊張が高まった。しかし、この頃アメリカはすでに泥沼のベトナム戦争に足を踏み入れており、朝鮮半島で新たな戦端を開く余裕はなかった。アメリカが朝鮮半島での有事を回避する選択を下したことにより、アメリカの支援が期待できなくなった韓国も軍事報復を断念せざるを得なかった。

 朴政権は、北朝鮮主席宮爆破と金日成を暗殺することを目的とした特殊部隊の創設を極秘裏に進めた。1968年4月、空軍2325戦隊209派遣隊が創設された。この特殊部隊創設は韓国中央情報部(KCIA)の主導で行われ、隊員は民間人からの募集で、人数は青瓦台事件で北朝鮮が派遣した31人であったという。隊員の募集に際し、除隊した時には大金や軍の階級が与えられるなどと厚遇を謳っていたが、政府は条件を守るつもりはなく、最初から使い捨てのつもりで募集していたという。特殊部隊は編成年月の「68年4月」から「684部隊」というコードネームで呼ばれていたという。684部隊の訓練は、仁川沖の無人島「実尾島」で行われた。

「684部隊」は6ヶ月の訓練の後、任務に投入されることとなった。実戦に向け、過酷な訓練を積む日々。それは時に死者も出るほど過酷なものだったという。いつしか31名いた隊員は24名にまで減っていた。「684部隊」は北への侵入し、金日成を暗殺する命令が下る日が来るのを待っていた。1969年頃に出動命令が出たが、実行に移される前に中止されたともされる。朝鮮半島を取り巻く情勢は変化していた。1969年1月にアメリカ大統領となったリチャード・ニクソンは1970年7月に在韓米軍の削減を発表。1971年4月に北朝鮮も南北統一に向けた対話に前向きな姿勢を見せた。1972年7月に南北共同声明が発表されるなど南北融和の動きが進んだ。1971年に金日成暗殺計画は撤回され、「684部隊」は存在しないことにされた。

 朴政権にとって不都合な存在となった「684部隊」は解散されることもなく現状維持のまま放置された。機密保持のため隊員が島を出ることは許されなかった。目的を見失ったまま過酷な訓練は続けられた。報酬や食事などの待遇は悪化した。「681部隊」の隊員たちの士気は下がり、不満は増大し、部隊内での揉め事が頻発した。「681部隊」の隊員たちは、大統領に劣悪な待遇の改善などを直訴することを決意する。1971年8月23日に反乱を起こし、教育隊員や警備兵など十数名を殺害し、島を脱出した。この時に、「684部隊」の隊員1名も死亡した、とも言われる。仁川に上陸した「684部隊」はバスを乗っ取って青瓦台へと向かう。軍や警察と抗戦しつつソウル市内へ侵入。2台目のバスを乗っ取った。バスの中で運転手に実尾島での4年に渡る窮状を語っていたという。やがてソウル郊外の路上で銃撃戦に発展。最後は手榴弾で自爆した。銃撃戦によって警察や軍、民間人も巻き添えになって多くの死傷者が出た。「684部隊」では4名の隊員が生き残り捕らえられた。韓国政府は当初は「北朝鮮の武装ゲリラの襲撃」と発表したが、後に「軍の特殊部隊の反乱」と修正した。

 4人の生き残りは軍籍がないにもかかわらず軍法会議にかけられ死刑判決を受けた。1972年に銃殺刑に処された。遺骨は近辺に埋められた、とも言われる。この事件は韓国の軍事政権下では長らく事実が隠蔽されていた。民主化によって表に出た資料によって事件が明るみになった。2003年の映画「シルミド」の大ヒットを受けて、社会的にも事件の全容解明を求める声が高まり、韓国当局が調査に乗り出した。2005年に国防部は「684部隊」隊員の遺族に34年ぶりに死亡通知書の正式交付を行った。



【ストーリー】

 1968年1月。北朝鮮の特殊部隊が韓国に侵入した。彼らの目的は青瓦台を襲撃して韓国大統領、朴正煕を暗殺することにあった。警官隊との銃撃戦の末、北朝鮮特殊部隊による青瓦台襲撃は実現できなかった。ヤクザ者で殺人を犯して死刑判決を受けたインチャンに、軍人から取引が持ちかけられる。韓国政府は報復として北朝鮮の金日成を暗殺するための特殊部隊の創設を韓国中央情報部の主導で計画していた。軍人はインチャンの過去を調べており、父親が北朝鮮に亡命したせいで共産主義者扱いされて爪弾きにされており、就職もできずヤクザに身を落とした過去も知っていた。任務を果たせば自由と金が手に入る。インチャンに選択肢はなかった。結成された極秘の特殊部隊「684部隊」に集められたのは死刑囚など社会から抹消されても惜しまれない者ばかり。彼らは無人島である実尾島で目的を遂行するための過酷な訓練を受けることになった。

 それは拷問のような常軌を逸した訓練だった。「684部隊」の訓練の指揮を執る訓練隊長のチェ准尉を始めとした正規の兵士は彼らを人間扱いしなかった。拷問に耐える精神を鍛えるために砂浜で上半身裸にされ焼き印が押される。それに耐えきったインチャンを含めた3人の男が、それぞれ班長に任命される。「落伍者は殺す」「逮捕されたら自爆しろ!」――金日成暗殺作戦が終了した後の恩赦を期待し、厳しい訓練を重ねる日々。時に仲間同士の軋轢が起こり、時に事故で命を落とす者も出てくる。チャンソクという男が事故で骨折し、訓練を続けられなくなってしまう。送還されそうになるが、戻っても死刑台が待っているだけだ。しかし、仲間が「雑用係がいれば訓練に集中できる」と口添えしたことで、チャンソクは炊事係として残ることになった。3年に渡る訓練の末、彼らは精神的にも肉体的にも精兵となり、ついに作戦が決行されようとした。ゴムボートで北朝鮮に潜入し、金日成を暗殺するのだ。しかし、その間に南北を取り巻く情勢も変わっており、南北融和のムードが出ていた。作戦決行の直前に中止の命令が下る。「684部隊」の隊員はチェ准尉にこのまま北に向かわせとほしいと頼み込むが、実尾島に戻らされた。

 目的を見失った「684部隊」の隊員は上官に逆らったり隣の島に潜入して住人の女性をレイプするような事件を起こすなど、統率を失っていった。韓国中央情報部は状況が変わったことで用済みとなった「684部隊」の存在を闇に葬ることを決定する。実尾島で部隊の訓練にあたってきた訓練部隊に「684部隊」を抹殺するようにという命令が下る。チェ准尉は、部下のチョ2曹やパク2曹と話し合いを持つ。チョ2曹は「684部隊」に対して過酷な訓練を課してきたが、この命令に反対する。彼は国家の命令の下、最強部隊を育てるために厳しく接していたのであって、その期待に応えて精鋭と呼ぶにふさわしい実力をつけた「684部隊」を誇りにさえ感じていた。対するパク2曹は韓国中央情報部の命令に従うべきだと主張する。パク2曹は「684部隊」に温情的だったことから、チョ2曹はパク2曹を激しく罵る。しかし、訓練部隊が命令を実行しなければ、訓練部隊も「684部隊」ともども抹殺対象にされてしまう。もうすぐ子供が生まれるパク2曹は、「684部隊」と一緒に死んでたまるか、と考えていた。そんなやり取りを、インチャンが聞いていた。実はこれは不意打ちするのを嫌ったチェ准尉がわざと聞かせたものだった。

 抹殺命令に従わないチョ2曹が出張に出される。その夜に作戦を決行しようとするパク2曹。同時に、インチャンたち「684部隊」も今夜が決行だと悟る。「684部隊」と訓練部隊との壮絶な死闘が繰り広げられる。「684部隊」に同情しつつも、国家の命令遂行のために部下たちの命を落としてしまったチェ准尉はインチャンに殺されることを望んだがインチャンはそれを拒否する。チェ准尉は自殺を選ぶ。「684部隊」は訓練部隊を制圧していく。しかし、追い詰められたパク2曹は恐るべき真実を口にする。「684部隊」の隊員はすでに韓国の社会の中では死んだことになっており、金日成の暗殺に成功したとしても、抹殺される運命にあったのだ。「684部隊」は自分たちの存在を世間に知らしめ、このような運命を押し付けた者に一泡吹かせようと反乱を決意し、韓国本土に上陸する。



【感想】

 韓国の軍事政権の時代を描いたひどく男臭い映画である。厳しい訓練シーンから韓国版「フルメタルジャケット」などという声もあったようだ。死んでも構わない人間として集められ、本当に死人も出ているだけ、あくまでも軍隊の訓練の範疇として描いていた「フルメタルジャケット」より質が悪い。しかし、金日成暗殺という目的のために殺人兵器となるべく集められた「684部隊」の隊員たちにも個性があり、考えがあり、葛藤がある。教育するための訓練部隊の兵士たちにも思うところがあり、葛藤を抱えている。幾重にも重なりあった人間模様が映画に深みを持たせていると感じる。別に自分は軍隊経験があるわけでもないし、安穏と生きてきた人間だから、誰かに感情移入することは出来ないが、それでも心が痛くなる映画である。

 劇中、「684部隊」に集められたのは死刑になるような犯罪者ばかりということになっていたが、実際には高額な報酬に誘われて集まった一般市民だったそうだ。そのため、遺族からは名誉を傷つけるとして公開中止を求める声も起きたという。また、作中で描かれたような部隊抹殺の命令も実際には存在しなかったと考えられているという。時代の陰に隠されていた事件を描く以上、公開されていない部分を映画人の想像によって補完するする部分や、映画的な脚色はあって然りだと思うが、南北に分断された半島の中で、国家に翻弄された人間の悲惨さ、国家というのがいかに人間を踏みつけにして成り立っているという事実はよく描かれていると感じた。



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韓国の軍事政権時代の事件を描いた作品

KT(2002年)

昭和48年(1973年)に起こった金大中拉致事件を、実行犯・協力者・金大中のボディガードの在日韓国人と多角的な視点から描いたポリティカルサスペンス。


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