エリザベス ゴールデン・エイジ(2007年)
DATE
Elizabeth : The Golden Age/イギリス
監督 : シェカール・カプール
<主なキャスト>
エリザベス1世 : ケイト・ブランシェット
フランシス・ウォルシンガム : ジェフリー・ラッシュ
ウォルター・ローリー : クライヴ・オーウェン
ロバート・レストン : リス・エヴァンス
スペイン国王フェリペ2世 : ジョルディ・モリャ
ベス・スロックモートン : アビー・コーニッシュ
スコットランド女王メアリー : サマンサ・モートン
……etc
【作品解説】
日本では2008年2月に劇場公開されたイギリス映画。1998年の映画「
エリザベス」の続編である。1580年代のイングランドを舞台に、40代となったエリザベス女王が、当時の複雑な国際情勢や三角関係を背景に女王として女性として苦悩しながら、国の危難に立ち向かう姿が描かれている。第80回アカデミー賞では衣装デザイン賞を受賞した。
【アルマダの海戦(1588年)】
16世紀――後世、大航海時代などと呼ばれることになる西欧が南北アメリカ大陸やアフリカ、アジアと世界中に進出し、植民地化していった時代。最初の覇者となったのはスペインであり、日の沈まぬ大帝国と呼ばれるほどの広大な領土を手に入れた。イングランドは、フランスとの百年戦争や薔薇戦争と呼ばれる内戦を経てテューダー王朝を成立させた新興国であった。この両国はスペインからの独立を目指して独立闘争を繰り広げるネーデルランドにイングランドが支援したことや、イングランドが私掠船によるスペインの貿易船に対する海賊行為を容認していたことなどがあり、関係は悪化していた。さらにプロテスタントだったイングランドの女王エリザベス1世は、国内のカトリック教徒を弾圧したため、ローマ教会は彼女を破門にし、カトリックの擁護者を自認するスペイン国王フェリペ2世とは宗教的にも対立関係にあった。エリザベス1世は庶子の立場であったことから王位継承権そのものに疑問を呈する声もあった。フェリペ2世はプロテスタントのエリザベス1世ではなくカトリックのスコットランド女王メアリー・スチュアートがイングランドの王位を継ぐことでイングランドとの諸問題を解決することに期待していたが、スコットランドの政争に敗れたメアリー・スチュアートはイングランドに逃れ、18年間イングランドの監視下に置かれた後、エリザベス1世暗殺の企てに加担した罪で1587年2月に刑死した。これをきっかけにフェリペ2世は武力によるイングランド征伐を決断する。
スペインが編成した130隻からなるイングランド征伐の大艦隊を、イングランドは畏怖と皮肉を込めて「無敵艦隊(アルマダ)」と呼んだ。1588年4月終わりにメディナ・シドニア公を総司令官に据えたスペインの大艦隊はリスボンを発った。途中でネーデルランド総督パルマ公の陸軍と合流してイングランドに攻め込む戦略だったが、通信手段が発展していなかった当時、海軍と陸上部隊が正確に合流することは難しく、計画は当初から破綻していた。1588年7月の終わり頃から8月の初めにかけて、私掠船の船長だったフランシス・ドレイクを実質的な最高指揮官としたイングランド海軍は無敵艦隊に攻撃を仕掛ける。イングランドの大砲は、スペイン海軍に搭載された大砲よりも軽量で威力は低かったが射程距離が長く装填速度も速かった。しかし、砲撃戦ではイングランド海軍優勢だったが、スペイン艦隊の装甲を貫くことはできず、メディナ・シドニア公が率いる敷いた三日月形の陣形を崩すことはできなかった。そこでイングランド海軍は、カレー沖で密集して投錨していたスペイン艦隊に向かって、火薬やタールなどで燃え上がらせた火船8隻を送り込む。混乱したスペイン艦隊は陣形を崩され、再集結もままならないまま、イングランド海軍の攻撃を受け散り散りとなった。メディナ・シドニア公は、これ以上の作戦続行は不可能と判断し、スペインに帰還しようとするが、風向きの関係によってプリテン島を反時計回りに一周して帰還するルートを選ばざるを得なかった。悪天候に見舞われたスペインの艦船は不慣れな海域ということもあって、次々と沈没したり座礁し、多くの有能な将兵が命を落としたり捕虜となった。無敵艦隊は、三割の艦船と半数の人員を失い、ボロボロになって帰還した。
超大国であったスペインだが度重なる対外戦争や貴族の贅沢な暮らしによって大陸からの富は浪費され、国家は破綻に近い状態にあった。衰退の兆候はアルマダの海戦以前から如実に表れていたが、アルマダの海戦がスペインが世界史の主役から降りる決定的な出来事だったわけでもなく、すぐさま海軍は再編成され、その後も数度にわたりイングランド征伐の遠征がなされた。また、アルマダの海戦の勝利は最も偉大な勝利者の一人としてエリザベス1世の名前をイングランド史に刻むことになったが、この勝利によってイングランドがスペイン帝国に取って代わったわけではなく、後に大英帝国(British Empire)と呼ばれる大帝国を築くのはまだ先の話である。
【ストーリー】
1585年――。40代となったエリザベスは女王として孤独や不自由さに縛られ、表情を殺し自分自身をも殺すように政務に勤しむ日々。イングランド国教会の信仰がプロテスタントに統一されたといっても、イングランド国内のカトリックの勢力は健在で、エリザベスの側近や侍女の身内にも存在していた。さらに国外では、スペイン国王フェリペ2世はヨーロッパをカトリックに塗りつぶす誓いを立て、イングランドの海賊行為への報復のために大艦隊――無敵艦隊を編成していた。さらに、イングランドに亡命して監視下にあるスコットランド女王メアリー・スチュアートもまた、エリザベスの王位継承の正当性を否定し、イングランドの王位を狙い暗躍していた。エリザベス――イングランドにとって、この二人は脅威だった。
国内外の問題に囲まれて神経をすり減らす日々の上に、外交上の理由から縁談をこなさなければいエリザベスは、縁談相手の下らないおべんちゃらにうんざりする。エリザベスの前に、新世界(アメリカ大陸)から海洋探検家のウォルター・ローリー卿という男が帰ってくる。宮廷に招かれたローリー卿は、女王の通り道にあった水たまりの上にマントを敷いてエリザベスの歓心を買う。ローリー卿が持ち帰った様々な嗜好品や原住民、新大陸の話はエリザベスの興味を引いた。ローリー卿はエリザベスの寵愛を得ようと考え、エリザベスはそのことを知りつつ、彼に惹かれるようになる。
エリザベスのお気に入りの侍女のベスは、従兄から助けを求められる。彼はカトリックの信者であり、メアリーの画策するエリザベス暗殺の陰謀に加担していた。恐れをなして寝返ろうとしていたが、ウォルシンガム卿によって捕らえられ、拷問の末処刑される。従兄の死を自分の責だと嘆くベスを慰めるローリー卿とは、やがて恋仲になりベスは妊娠する。そのことを知ったエリザベスは激怒し、ベスとローリーを遠ざけ、ローリー卿を謹慎させる。エリザベス暗殺未遂事件が起きる。エリザベスは負傷しなかったが、首謀者であるメアリーの処遇を巡り決断を迫られる。メアリーの処刑の許可にサインするのを拒むエリザベスだったが、重臣たちに迫られ、ついに処刑を許可する。これによって、スペインとの戦いは避けられなくなった。無敵艦隊を迎え撃つためにイングランドの艦隊も出撃し、エリザベスも鎧をまとい、将兵を鼓舞するために前線へと向かう。
【感想】
前作から10年近く経ち、スターの地位を確固としたものにしたケイト・ブランシェットが、孤独な一人の女性であり、一国を背負って立つ女王の姿を再び演じている。前作では20代前半の娘に過ぎなかったエリザベスが、どっしりとした圧倒される威圧感ある女王に成長している。その中で、女王としてのエリザベスと女性としてのエリザベス。その揺らぐ部分をしっかりと描いていると思う。
前作同様、歴史に様々な脚色を加えつつ、前半の絢爛豪華な宮廷の場面とエリザベス暗殺をたくらむメアリ・ステュアートらカトリックの信者たちの陰謀。後半は侵攻を始めたスペイン無敵艦隊との一大決戦。いずれも見ごたえのある場面が続く。とはいえ、もっと艦隊同士の決戦を描いてほしかったなぁ、とも思う。