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世宗大王 星を追う者たち(2019年)





DATE

FORBIDDEN DREAM/韓国
監督 : ホ・ジノ

<主なキャスト>

チャン・ヨンシル : チェ・ミンシク
世宗 : ハン・ソッキュ
ファン・ヒ : シン・グ
イ・チョン : キム・ホンパ
チョ・マルセン : ホ・ジュノ
チョン・ナムソン : キム・テウ
              ……etc

目次
『世宗大王 星を追う者たち(2019年)』の作品解説
キーワード『世宗大王(1397年〜1450年)』
『世宗大王 星を追う者たち(2019年)』のストーリー
『世宗大王 星を追う者たち(2019年)』の感想


【作品解説】

 日本では2020年9月に劇場公開された韓国映画。朝鮮王朝(李氏朝鮮:1392年〜1897年)の第4代国王・世宗と奴婢でありながら天才的な知識と技術を持つチャン・ヨンシル。15世紀――朝鮮が明国に従属していた時代を舞台に、数奇な運命に翻弄されながら、身分を超えた固い絆を育んでいく姿を描く歴史ドラマ。




【世宗大王(1397年〜1450年)】

 1418年に第4代朝鮮国王として即位した世宗(1397年〜1450年)は、歴代の朝鮮王朝の国王の中でも屈指の名君であったと言われる。3代国王・太宗までの時代に築かれた朝鮮王朝の土台の上に、北方を脅かしていた女真族を討伐して現代にもつながる朝鮮半島の領土を確立し、土地制度の改革、農業技術の向上、学問の奨励、儒教政治の強化などが行われた。太宗の三男であった世宗は王位に就くはずではなかったが、奔放であった長男が王位継承権を取り消されたために、世宗にまわってきたという。ただ、聡明であった世宗に王位を譲るために、長兄次兄がそのような態度をとっていたとも言われ、世宗が国王になってからも兄弟仲は良かったという。

 王になってからは学問研究機関として設置されながらも有名無実化していた集賢殿という役所に全国から英才を集めて育て上げ自らのブレーンとした。天文観測器や金属活字の改良など様々な開発が行われ、科学技術の発展につながった。最大の功績として知られるのが訓民正音――ハングルの創造である。朝鮮半島では朝鮮語で会話されていたが、独自の文字がなく、漢字の音を借りていた。その為、文字の読み書きは上位階級のものになっていた。ハングルの創造によって民衆に文字が広まることを期待し、朝鮮半島のアイディンティの確立を願望したとも言われているが、当時は広まらなかった。

 また、朝鮮半島の沿岸を荒らしまわっていた倭寇に対して、1419年、上王として実権を握っていた太宗の意向もあり、その本拠とされた対馬に軍事侵攻(日本では応永の外寇と呼ばれる)を行うが失敗に終わる。その後は外交的解決に重きを置き、幾度かの通信使を派遣し、日本の朝鮮半島への出先機関となった対馬の宗氏や、室町幕府とも修好を結んだ。世宗の時代が李氏朝鮮の最盛期と言われ、歴代国王の中でも最も名君であったと世宗大王とも呼ばれるが、強大であった中国の明への事大主義政策を押しすすめたという評もある。


【ストーリー】

 朝鮮王朝が明国の従属的な立場にあった15世紀初め。朝鮮の天才科学者、チャン・ヨンチルが作り出した天文観測器などが明国の使者の前で燃やされていく。独自の文字や暦を持つことすら許されなかった朝鮮の現実であった。

 遡ること20年前。第4代国王・世宗は、明から持ってきた水時計の絵に興味を持つ。それを描いた奴婢のチャン・ヨンチルに同じものが造れるか問うと、同じものは作れないが朝鮮独自のものを作ることはできるという答えが返ってくる。開発を命じられたヨンチルを待っていたのは、支配層の人間たちからの侮辱的な扱いであった。世宗はヨンチルの身分を平民とし、品階を与えるが、重臣たちからは不満が続出する。奴婢を軽々しく登用すべきではないと主張する重臣たちに、能力ある者に官職を与えれば国のためになると言う世宗。ヨンチルはその期待に応え、水時計を完成させる。正確な時を知ることができるようになったことを世宗は喜ぶ。続いて世宗は独自の天文観測機器を製作するように伝える。明が作った農事暦では朝鮮と合致しないため、朝鮮の農民は苦労していたため、朝鮮も独自の農事暦を持たつ必要があったのだ。

 世宗とヨンチルは天と地ほども違う身分の差を超えて友情を育むようになる。重臣たちは、朝鮮が明国の支配から逃れようとするかのような試みは、明の怒りを買うだけだと恐れる。その為に、世宗とヨンチルを引き離さなければ。憂いは現実のものとなり、激怒した明の使者の前で、ヨンチルの天文観測機器を燃やさなければならないところに世宗は追い詰められる。明に引き渡されるためにヨンチルは投獄されるが、それは世宗の命令ではなかった。「余がそれを命じたか?」と重臣たちを責める世宗に「朝鮮を守るため」と返す重臣たち。もはや自分に従わなくなった重臣の姿を見た世宗は、世子に王位を譲ると告げると引きこもってしまう。

 譲位は時期尚早だと訴える世子や重臣たちを残して、温泉療養に向かう世宗。その間に、ヨンチルを明に引き渡してしまおうと画策する重臣たち。世宗が独自の文字を開発しようとしていることに気付いた者がおり、それが明に知られればとんでもないことになる。急がなければならなかった。ところが世宗の乗った輿が事故を起こす。輿の車輪には細工した形跡があった。世宗は、明と手を組んだ重臣たちが自らを亡き者にしようと謀略を企てたと、信頼している引退していた将軍に命じて軍を使って明に引き渡されようとしていたヨンチルを奪還する。そして、明の使者や朝鮮の重臣たちの前に現れた世宗は、かつて父の太宗が粛清の雨を降らせたときに着ていたのと同じ黒い衣を纏っていた。


【感想】

 朝鮮独立の夢を見る君主と、その君主の夢をともに見ることを望みながら数奇な運命に翻弄される天才科学者の物語。そこに、明の従属国という立場に甘んじる以外に朝鮮を生き残らせる術はないと信じる重臣たちの思惑が入り混じる。大国から常に圧力をかけられ続け暦や言葉さえ自分たちのものを持てず、小さな国の中では支配者層が新たにのし上がってくる勢力をどうにかして引きずり下ろそうと足の引っ張り合いをする。そんな哀しい国の中で、理想を掲げて邁進する君主と、ただ一人の理解者であった男が、最後の場面では友情のためにぶつかり合う。友情のために理念を捨てようとする世宗と、友情があるからこそ理念を守れと自ら罪人となるヨンチル。話の構成上時系列が分かりにくい部分はあったし、派手な演出のない映画だったが、二人の男の友情の証が交差する場面は見ていて感極まるものがあった。