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トリスタンとイゾルデ〜あの日に誓う物語〜(2007年)




DATE


Tristan & Izolde/アメリカ

監督 : ケヴィン・レイノルズ


<主なキャスト>


トリスタン : ジェームス・フランコ

イゾルデ : ソフィア・マイルズ

マーク : ルーファス・シーウェル

ドナカー : デヴィッド・パトリック・オハラ

ウィクトレッド : マーク・ストロング

                 ……etc


目次
『トリスタンとイゾルデ〜あの日に誓う物語〜(2007年)』の作品解説
キーワード『トリスタン物語』
『トリスタンとイゾルデ〜あの日に誓う物語〜(2007年)』のストーリー
『トリスタンとイゾルデ〜あの日に誓う物語〜(2007年)』の感想


【作品解説】

 日本では2006年10月に劇場公開された。ワーグナーのオペラなどで有名な中世の騎士道物語「トリスタン物語」をモチーフに、許されない愛に囚われた騎士と王女の物語がドラマチックに描かれている。映画では媚薬の存在は登場せず、立場の違いゆえに結ばれない悲恋として描かれている。DVD化の際、「あの日に誓う物語」の副題がつけられた。


【トリスタン物語】

 アーサー王の円卓の騎士の一人として知られるトリスタンの物語はケルトの説話に端を発する独立した物語であった。12世紀の中世フランスで韻文(日本の俳句や短歌のように一定の規則(韻律)に則って書き表された文章)としてまとめられた。13世紀には散文(小説のように一定の規律を持たない文章)で書き表され、長文のロマンスとしてまとめられた。それがアーサー王の物語に組み込まれ、ランスロットやガウェインといった勇敢な騎士たちと肩を並べる武勇を持った騎士として扱われることになる。

 コーンウォールのマルク王に仕え、マルク王を父のように尊敬している勇敢で人格者である騎士トリスタンと、マルク王に嫁ぐためにコーンウォールへとやってきたアイルランドの王女イゾルデ。彼女を迎えに行ったトリスタンは、コーンウォールへ向かう船上でイゾルデとともに誤って媚薬を飲んでしまう。激しい情愛に囚われることになってしまった二人は、マルク王への敬意や感謝の情を抱きながらも、許されない愛に苦悩する。

 トリスタン物語は長い歴史の中で様々な異本が作られた。大きく分けて流布本(俗伝本)系と宮廷本(風雅体本、騎士道本)系の二つ逃れが生まれたという。前者は荒々しい登場人物が情熱や衝動に駆られて動く物語。後者では、騎士の愛を論じるうえでの禁忌……情熱に突き動かされる情愛――ましてや薬によって生み出された情愛など論外という立場から、媚薬をもともとお互いが持っていた感情を呼び覚ます薬であると解釈した。16世紀の劇作家のシェイクスピアはロミオとジュリエットをトリスタン物語から着想を得て書き上げたと言われている。


【ストーリー】

 物語の舞台となるのは紀元5世紀のプリテン諸島(イギリス諸島)。ローマの支配から解放されたプリテン諸島は、様々な領主が乱立する時代を迎えていた。そんな中、アイルランドは海に護られ繁栄し、イギリス(グレートプリテン島)に乱立する諸国に強い支配力を持っていた。その支配から解放されるために、イギリスを一つにしようと画策したのがトリスタンの父親だった。しかし、その企てはアイルランド王に露見し、集まった領主たちと共に、トリスタンの両親も殺されてしまう。

 その9年後、父の名優であったコーンウォールの領主マークに育てられたトリスタンは立派に成長した。あるとき、軍の指揮官として上陸したアイルランド兵を壊滅させたトリスタンだったが、戦いの最中、敵の兵士の刃についていた毒によって命を落としてしまう。王を弔うのに用いられる葬送の儀式で海へと送り出されたトリスタンだったが、彼は蘇生しアイルランドの海岸に流れ着いた。そこで、先の戦いで婚約者を殺されたばかりのアイルランドの王女・イゾルデに出会う。懸命に看病するイゾルデに、トリスタンは恋愛感情を抱くが、2人はもともと結ばれることの無い運命。イゾルデはそう思い、自分の名も、身分も隠して付き合っていた。そのことが、後の悲劇に繋がることも知らずに……。そして、2人は別れ、やがて再会するのだが……。

 アイルランド王ドカナーは戦死したイゾルデの婚約者を悼んでの武術大会を開き、優勝者には褒美としてイゾルデと土地を与えると宣言する。その真意は、イギリスの諸侯の分断にあった。マークはアイルランドと同盟を結ぶのも一つの手と考え、代理としてトリスタンをアイルランドに送る。武術大会で優勝したのはトリスタンだった。トリスタンと夫婦になれると喜ぶイゾルデだったが、トリスタンの役目は、マークの妻としてイゾルデを迎えることであり、イゾルデは望まぬ結婚をすることになってしまう。トリスタンも、イゾルデのことを忘れることができず、マークの目から隠れて逢瀬を重ねるようになる。しかし、そのことが露見するのにそれほどの時間はかからなかった。


【感想】

 物語の舞台となっている5世紀のプリテン島は、かつて強大な武力によって支配したローマ帝国が力を失って撤退し、様々な領主が乱立していた時代。大陸からの勢力の脅威にもさらされ、長い時間をかけて今日のイギリスが形成された。騎士道物語をモチーフにしながら、そんな遠い時代に思いを馳せる映画になっている。

 内容的に突出した部分はあまり無いが、トリスタンとイゾルデの運命の悪戯とも言うべきすれ違いが、とても物悲しい作品になっている。でも、一番気の毒なのは、最後まで蚊帳の外に放り出されていたマーク王だろう。真実を目の前に突きつけられた場面はいかにも哀れだ。このような作品は好きな方なのだが、トリスタンとイゾルデの長大で複雑な物語をバッサリとカットしたため、大恩あるマークへの忠誠とイゾルデへの愛情との間の葛藤や婚約者を殺されその相手を愛してしまうことになるイゾルデの葛藤、などが弱く感じる。マーク王もいい人すぎて、背徳の愛にはまっていく2人の悲劇を弱いものにしてしまっていると感じた。