リベンジ・クイーン 封神:妲己(2021年)

DATE
The Queen/中国
監督 : リウ・ディヤン
<主なキャスト>
ジリアン・チョン
リウ・ディ
サミー・サム
……etc
【作品解説】
中国の古典長編小説『封神演義』の世界を基に2021年に制作された中国のヒロインアクション。この作品では紂王と妲己を愛し合いながら運命に翻弄される人間と妖怪として描いている。
【封神演義】
中国は明の時代に成立したとされる神や仙道、妖怪がそれぞれの思惑入り乱れるスケールの大きな神怪小説である。作者は一般には許仲琳とされているが諸説ある。文学的な評価はさほど高くないようだが、中国の大衆の間では長く親しまれ、宗教文化・民間信仰に大きな影響を与えたとされる。
舞台となっているのは史実である紀元前11世紀の殷周易姓革命の時代。殷(商)王朝の第30代の王、紂王は文武に長けた名君であった、しかし、自らの才覚におぼれ、傲慢になっていった紂王は、女神であるジョカ廟の祭祀で、ジョカの美しさに、「ジョカが私のものであったらよいのに」という句を詠んだ。この無礼極まりない紂王に怒ったジョカは、千年生きた狐狸の精に紂王を陥れるよう命じた。狐狸の精は、後宮に入ることになっていた冀州侯の娘・妲己という美女に乗り移り、紂王に接近する。妲己によって篭絡された紂王は堕落し、忠臣たちを次々殺害し、暴君へと変貌していく。
封神演義の世界は仙界と人界に分かれている。紂王が統治する人界に対して、仙界では闡教(せんきょう)と呼ばれる人間出身の仙人・道士が教主である元始天尊の元、崑崙山で修業を積んでいる。また截教(せっきょう)という動植物や森羅万象を由来とする仙道が存在している。殷の時代が終わり新たな周の時代が訪れようというとき、天命により戦乱によって命を落とし、神として封じられる365名のリストである「封神榜」が策定されていた。この儀式を遂行する役目を負ったのは、闡教の道士である姜子牙(太公望)であった。下山した姜子牙は、周の文王、子の武王に仕えた。殷の太師・聞仲は周に討伐の軍を差し向け激しい戦いを繰り広げる。聞仲は膠着する戦局を打破するために截教の仙道を味方につけ、姜子牙も闡教の仙道に加勢を求めた。戦いは仙界の二大勢力の代理戦争の様相を呈し始める。
封神演義が書かれたのは明末期の万暦帝の時代とされる。幼いころは利発で将来を嘱望されていたという万暦帝は10歳で即位した。宰相の張居正は剛直で政治手腕にも長けた名宰相であり、万暦帝の指導者でもあった。その指導者が死ぬと万暦帝はタガが外れたように政務を放棄し、内外に問題が山積する中、増税によって苦しむ民衆を横目に自身は蓄財に邁進し、明が滅んだ最大の要因とまで言われるほどの暗君と成り果ててしまったと伝えられる。なんだか紂王ともイメージが被る人物だが、ヨーロッパ人の渡来などによって貨幣経済が発達し、商業的には繁栄し、大衆文化が発達した時代でもあったとされる。日本では最近までは決して知名度の高い作品とは言えなかったが、1989年に刊行された安能務編訳によるリライト版や週刊少年ジャンプに1996年から2000年にわたり掲載されて大ヒットとなった藤崎竜の漫画『封神演義』によって多くの人に認知された。
【ストーリー】
白猿の妖怪・袁洪が率いる妖怪軍団に襲われ、妹分である水蛇の紅蓮と水仙の玲瓏とともに囚われの身となった妖狐・九尾。袁洪たち妖怪軍団は、玉虚宮から来た道士の姜子牙によって全滅させられ、その戦いの隙に九尾たちは逃走する。ジョカ廟へ逃げ込んだ九尾にジョカは良縁を授けようと告げる。そして、若くして死んだ蘇氏の娘・妲己の姿を借りて生活することに。それから5年後。商王朝と蘇氏は争っていたが、その戦いのさなか、妲己は一人の男を見初めた。男の名は商の紂王。平和な世を作るために戦いを繰り広げる紂王に、妲己はそれではいけないと自分の考えを伝える。紂王は妲己を気に入り新たな妻として朝歌の都に迎え入れる。
玉虚宮では商の時代の終わりを予見した姜子牙の師・元始天尊が、姜子牙に新たな命令を与える。王たる器の人物に仕え補佐するようにという指示に、露骨にやる気のない姜子牙。自分こそ、その大役に相応しいと名乗りを上げる姜子牙の弟弟子である申公豹を、元始天尊はあっさり却下して、姜子牙には武器や霊獣・四不象を与える。しぶしぶ下山する姜子牙。そのころ、王宮では妲己の正体は妖怪ではないかと声を上げるものも出始める。妹分の紅蓮が勝手に妖術を使ったためだった。紅蓮は紂王の正妻・姜皇后を襲うが、駆け付けた姜子牙によって返り討ちに。それをきっかけに姜皇后に取り入り、紂王に近づくことに成功した姜子牙。その頃、姜子牙への復讐に燃える申公豹が九尾たちに近づいていた。
【感想】
封神演義でおなじみの姜子牙、妲己、紂王などが登場し、ワイヤーアクションあり、派手なCGありで、全編70分強ということもあり、見やすく楽しめた作品だった。本作では妲己を紂王をたぶらかし国を滅ぼした妖婦としてではなく、純愛に生きた一人の女妖怪として描いている。史実は勝者が作るもの、であり勝者である周が敗者である殷や紂王を悪人として描くのも王朝の正当性を主張するのに当然のことでもある。現実は史上稀に見る暴君とされる紂王も、古代中国三大悪女の一人に数えられる妲己も、老いた王朝を立て直そうと奔走し、そんな王を支えようと懸命だっただけなのかもしれない。などと要らないことを考えずに、アクションを楽しみ、ヒロインを演じたジリアン・チョンの美しさを楽しみ、藤崎竜氏の漫画しか知らない人は申公豹ってこんな嫌な奴だったんだ、と楽しめばいい作品。