大コメ騒動(2020年)

DATE
日本
監督 :本木克英
<主なキャスト>
松浦いと : 井上真央
松浦利夫 : 三浦貴大
松浦タキ : 夏木マリ
尾上公作 : 立川志の輔
水野源蔵 : 吹越満
黒岩仙太郎 : 石橋蓮司
清んさのおばば : 室井滋
……etc
【作品解説】
2021年1月に劇場公開された。1918年の米騒動の発端となった「越中女房一揆」をもとに、家を守る女たちの戦いを描いている。メガホンをとったのは富山県出身の本木克英。出演俳優も富山出身者が多数名を連ね、撮影も富山市の岩瀬浜など富山県内を中心に行われたという。
【1918年米騒動(大正7年(1918年))】
まだ第一次世界大戦が続いていた1918年(大正7年)。米価は値上がりを始めていた。工業化に伴う都市人口の増加による米の需要が増えていたこと、逆に農村部の人口流出による米の生産量の伸び悩みなどが素地としてあった。そこに、前年のロシア帝国での2度の革命に対し、日本はシベリア出兵を行おうとしていたことにより、米の需要はさらに増すと見た地主や米商人の投機の対象となり、米の売惜しみや買占めが横行したことが値上がりに拍車をかけた。当時の寺内内閣は高まりつつあった不満に対して有効な対策をうてず、社会情勢の不安定化を警察力の強化で抑え込む方針で挑んだ。民衆の生活難や不安から来る怒りの矛先は資本家――特に米商人や商社などの流通業者に向いた。
暴動の発端となったのは富山県であった。7月上旬ごろから県内各地の住人によって米問屋や港に対して米の移出の停止を求めたり、役所に対して救済措置をとるように訴える動きが活発化していた。8月3日夜、中新川郡西水橋町で、約300人の住人が集結し、米問屋や資産家に対して米の移出を停止し、廉価で販売するように嘆願した。この動きは警察によって解散させられたが、4日夜には東水橋町、5日夜には滑川町でも同様の動きが起こった。6日には、業を煮やした群衆は資産家宅へ押し寄せ、打ちこわしに及んだ。米の移出を実力行使によって阻止した住民たちは、相場より安い値で米を売らせることに成功した。同じころ、全国紙でも3日の西水橋町での出来事が「越中女房一揆」として報じられ、騒動は富山県下のみならず、岡山県をはじめ、和歌山県、香川県、愛媛県など全国各地に広がっていく。
8月10日夜、名古屋市、京都市でも騒動が勃発。ついに全国の主要都市にも米騒動が飛び火していく。翌日以降は、大阪市、神戸市でも騒動が起こり、打ちこわしが行われ米屋に安売りを受け入れさせた。もはや、警察力だけでは対応できなくなり、軍が出動して鎮圧にあたったケースもあった。13日。主要政党は北陸で暴動が起こっても静観していたが、ついに東京市でも暴動が発生。この頃が米騒動のピークであった。東京での騒動は、他の地域でのそれと違い、反ブルジョア思想を背景とした都市暴動の性質を帯びており、参加者の多くが若年者であったという。東京での騒動に対応して軍が出動。16日までに軍によって騒動は鎮圧され、299人が検挙された。8月20日ごろまでに都市部、農村部かかわらず全国に波及した米騒動は、やがて山口県や福岡県、熊本県での炭鉱での労働争議へ飛び火しながら9月半ばごろまでに収束していった。
約50日間に及ぶ全国で起こった米騒動に参加した人間は数百万人を数えると言われ、これに対して警察のみで鎮圧できずに軍が出動した地域は3府23県に渡り、10万以上の兵力が投入されたという。25000人が検挙されたとされる。米騒動の批判の矛先は寺内正毅内閣総理大臣にも向けられ、かねてからの体調不安もあって9月21日、内閣総辞職した。その後、組閣の大命を受けて誕生するのが平民宰相・原敬だった。日本初の本格的な政党内閣として結成され、国民の大きな期待を背負った原内閣だったものの、国民からの人気を背景に妥協の産物と生まれた内閣であったため、政治方針を大きく転換することができず、国民の大きな失望を招いた。また、肝心の米価格も騒動終了後は再び上昇し、年末には騒動前と同じ水準に戻ったが、米騒動の再発はしなかった。とはいえ、米騒動は、たんなる米の値段をめぐる騒乱にとどまらず、様々な社会問題を浮き彫りにし、大正デモクラシーを象徴する事件として記憶され、政治の民主化に対して大きな波紋をもたらす出来事となった。
【ストーリー】
1918年(大正7年)夏の富山。主人公の松浦いとが嫁いできた漁師町では男たちは海へ出て漁をするか、北海道に出稼ぎに行く。その妻(おかか)たちは、米俵を浜に運ぶ仕事についていた。当然、男も女も大量に米を食う。それなのにシベリア出兵を控えて米の価格はどんどん値上がりしていく。多少の学があり、新聞を読めたいとは、原因がわかっていてこれからさらに米価が上がっていくことも予想できた。たまりかねたおかかたちはリーダー的存在である清んさのおばばとともに、米の搬出の作業場に向かい、作業を阻止しようとする。その模様は、いとたちの思いとは裏腹に大阪の新聞社に「女一揆」と現実とはかけ離れたセンセーショナルな書き方で報道されてしまう。大阪からやってきた新聞記者にそのことを聞かされたいとは愕然とする。
おかかたちの願いは、「夫や子供に腹いっぱい食べさせたい」という思いだけ。おかかたちは大地主の黒岩のところに向かい、米を安くしてもらうように頼みに行くが、警察に蹴散らされる。さらに、米屋のところに抗議に行ったおかかたちの動きを封じようと、警察はおばばを逮捕する。さらに、米屋の女将は、困窮するいとに、抗議をやめるなら他の人間より安く米を売ってやると持ち掛ける。子供のためにその取引を飲んでしまったいとだったが、そのことがばれてしまい、おかかたちの団結は分裂してしまう。そんな時、警察の取り調べで瀕死になったおばばが返されてくる。おばばのところに集まったおかかたちは、それぞれが腹の中で抱えていた複雑な感情を、一人ずつ語っていく。
【感想】
1918年の米騒動の端緒となった富山県の漁師町での出来事をモチーフにした映画。主演の井上真央をはじめドーラン塗ったくった真っ黒い顔で、おかかたちの強さをしっかりと描いていたと思う。舞台となる漁村の日常生活や、聡明ながら引っ込み思案ないいとが不条理に立ち向かう強さを身に着けていく姿を丁寧に描きながら、なぜ女たちが立ち上がらなければならなかったか分かりやすく描いている。女性の社会的地位が低く、「女が動いたところで何も変わらない」と公然と言われるような時代に、家族のために立ち上がり、社会を変える発端となった出来事を痛快に描いた大真面目な映画である。
予告編で「映画館で笑い初め」なんて出てくる、エンタメ色強い作品だったが、キャラクターの濃さはとにかくシーンそのものはそんなに笑えるものではなく、個人的にはもっとシリアスな歴史劇にしたほうがよかったのではないかと思う。まぁ、史実をもとにしたシリアスな歴史劇が興行収入に繋がらないのは分からないではないが、全体的に中途半端というかちぐはぐな印象を受けた。