忍びの国(2017年)

DATE
日本
監督 : 中村義洋
原作 : 和田竜 『
忍びの国』
<主なキャスト>
無門 : 大野智
お国 : 石原さとみ
下山平兵衛 : 鈴木亮平
織田信雄 : 知念侑李
北畠凛 : 平祐奈
北畠具教 : 國村隼
日置大膳 : 伊勢谷友介
……etc
【作品解説】
2017年7月に劇場公開された。原作は2008年に刊行された和田竜による同名の歴史小説。戦国時代の天正伊賀の乱を舞台に、侍と忍者の戦いを描く、戦国エンターテイメント。
【天正伊賀の乱】
永禄11年(1568年)、尾張・美濃を手中に収め、足利義昭を奉じて上洛し、戦国大名として頭角を現していた織田信長が、伊勢国攻略に乗り出した。北伊勢を攻略し、さらに南伊勢に進攻する織田軍に対して、伊勢国国司である北畠家の抵抗は激しかった。大河内城を包囲した織田軍だったが、天然の要害であった大河内城を攻めあぐねた織田軍は、北畠家と和睦する。和睦の条件には茶筅(後の織田信雄)が養嗣子として北畠家に入ることも含まれていた、とされる。茶筅は、千代御前(雪姫:時の北畠家当主、北畠具房の妹)と婚儀をし、元亀4年(1572年)ごろ、元服し北畠具豊(以降は織田信雄、あるいは信雄と記す)を名乗るようになる。天正3年(1575年)ころには北畠家の当主となった織田信雄だったが、伊勢国における北畠家の影響力は未だ健在であり、中には織田家と敵対していた武田家と通じようとしていた勢力もあった。天正4年(1576年)11月、信長・信雄親子は北畠家の粛清を決意し、実行に移す(三瀬の変)。北畠家の前当主で実権を握っていた北畠具教をはじめその家臣や武将、伊勢国の有力者が排除され、伊勢国は織田家が完全に掌握した。
この頃になると、天下統一に向けて着々と歩を進めていた織田家は、伊賀国の領国化を目論んでいた。伊賀国の守護は仁木氏だったが影響力は限定的で、有力な郷士たちが乱立する状況だった。都に近く、険しい山々が複雑な地形を形成する盆地のような土地の中で、彼らはゲリラ戦の技術を磨いていた。その他、様々な要因が絡みあい、伊賀は有名な忍者の本拠となっていた。天正6年(1578年)2月、下山平兵衛(下山甲斐守)という男が内通を申し出る。下山は伊賀国の郷士で日奈知城主であった。3月、信雄は丸山城の大規模な修築を命じた。これを脅威に感じた伊賀の郷士たちは協議し、丸山城を襲撃する。不意を突かれた丸山城の兵たちは伊勢国に敗走する。天正7年(1579年)9月、信雄は信長からの命令も、信長への相談もないまま、8000の軍勢を引きいて三方から伊賀国への侵攻を開始する。大軍を前に、伊賀国の忍者たちは攪乱戦法や夜襲、地形を生かした奇襲などを用いて戦った。信雄の軍勢は各地で敗北を重ね、数日で伊勢国に敗走した。後に言う、第一次天正伊賀の乱は伊賀国の忍者の勝利で幕を閉じた。
この命令違反と敗走に信長は激怒し、信雄を厳しく叱責され、「親子の縁を切る」とまで書いた書状を送ったという。同時に、信長は忍者への警戒心を抱き、天正9年(1581年)9月には再び織田信雄を総大将に伊賀国への侵攻を行う。今度は、第一次の時の5倍以上??一説では10万ものの兵員を動員していた。伊賀衆は比自山城に3500人(非戦闘員含め10000人)、平楽寺(後の伊賀上野城)に1500人で籠城したという。第一次の時のように地の利を生かした奇襲などの戦法で善戦する伊賀衆だったものの、多勢に無勢の戦いの中、織田方からの凋落もあり足並みも揃わず追い詰められていった。柏原城に逃げ込み、最後の抵抗を繰り広げた伊賀衆だったが、内通者が出たこともあり開城された。これによって第二次天正伊賀の乱は終結した。第二次天正伊賀の乱は織田軍による一方的な虐殺だったとも言われ、伊賀国は城塞のみならず寺社仏閣を含めてことごとく焼き払われ、わずか2週間の間に、9万の住民のうち、非戦闘員や平楽寺攻略の際の僧侶700人なども含む約3万人が殺害されたという。
【ストーリー】
戦国時代の伊賀国。小さな城を舞台に二つの勢力が争っている。有力な郷士たちが乱立する伊賀国で年中行われている小競り合いの一つであり、忍び同士がスポーツ感覚で戦っている。城側の抵抗に攻めあぐねていた攻め手の郷士は、無門という伊賀でも隋一の忍びを送り込む。最初は城の門を開くだけの約束で手を貸した無門だったが、大金を提示され、砦側の下山次郎兵衛という男の殺害を引き受ける。砦に戻った無門は、下山次郎兵衛に“川”という決闘を挑まれる。あっさりと下山次郎兵衛を殺害した無門。その直後に、陣笛が鳴り響き、勝者はないまま攻め手は引き上げあっさりと戦いは終わった。下山次郎兵衛は城主の息子であった。兄の下山平兵衛は、息子の死に何の感慨も示さない父や、仲間が死んでも平気な顔をしている伊賀の忍びたちに疑問を感じるようになる。
無門にはお国という妻がいた。潜入した先で一目惚れして連れてきた武家の娘である。お国を何不自由ない暮らしをさせると約束して連れてきた無門だったが、怠け者で稼ぎが少く落胆されていた。その頃、天下統一に向けて勢力を拡大していた織田信長は、伊賀の隣国・伊勢国に迫っていた。伊勢の国司である北畠氏に養子として次男・信雄を送り込んだ信長は、剣豪であった北畠具教を、日置大膳ら北畠氏の旧家臣を使って謀殺する。信長は、伊勢国の実権を握った21歳の信雄に、伊賀国への侵攻は行わないようにと釘を刺していた。そこに、下山平兵衛が訪れ、信雄に伊賀攻めを行うように焚き付ける。伊賀の統治のために、伊賀領内に城を建てるようにと平兵衛は進言する。それは、伊賀を支配する12人の郷士――十二家評定衆の会合で、「城を建てられた厄介なことになる」という話を聞いたからだった。信雄は十二家評定衆に金銭を渡し、伊賀の者を雇って築城を開始する。しかし、最初から織田家に服従する気などなかった伊賀の者たちは、金だけを受け取って完成した途端城を焼き払ってしまう。
実は十二家評定衆の目的は、織田家と戦いこれを退けることで、金で戦う傭兵として各地の戦場に送り込んでいた伊賀の忍びに箔をつけて、根を吊り上げようとしていたのであった。未だ、織田家に心底服従しているわけではない伊勢の兵が動かなければ、織田といえども恐れるに値せずという考えであった。そのために下山次郎兵衛を殺させて兄の平兵衛を伊賀から離反するように仕向け、城を作られたら困るという偽の情報を織田に自発的に運ぶように罠にかけたのだった。伊勢の状況を調査するために無門は潜入し、信雄の寝所に忍び込む。思ったより骨があった信雄の命を無門は取らなかった。その後牢屋で、北畠氏の娘と遭遇する。彼女は、北畠具教の仇を取ってほしいと1万貫にはなるという家宝の茶器を無門に託し、自分は自害する。信雄は、伊勢の武将が手を貸さなかったとしても自分は伊賀攻めを実行すると宣言する。不参戦を決め込んでいた日置大膳だったが、信雄から自身の非才への自覚や信長への尊敬と劣等感の入り混じった複雑な感情を吐露され、伊賀攻めに協力することを決める。
伊勢の武将の参戦は十二家評定衆の想定外であった。さらに金にならない戦に命は賭けられないと伊賀衆たちも次々と国を離れていき、大した戦力は集まらなかった。国境に張られた防衛線は、鉄砲などの装備や数に勝る織田軍の前に、あっさりと破られ伊賀の命運も尽きようとしていた。国を離れる伊賀衆の中に、無門の姿があった。彼もまた、命を落とすかもしれない金にならない戦いに身を投じるつもりはなかった。自分の国が滅ぼされようとしているという時に、自分の身ばかりを優先する無門や伊賀衆のことを、お国は非難する。無門は、北畠の娘から託された茶器を使い、逃げようとする伊賀衆に報酬を払うと宣言する。金が受け取れると知った伊賀衆たちは、織田との戦いに向かった。伊賀衆の参戦によって戦況は逆転、多くの兵を失った信雄は、撤退を命じる。その信雄の命を狙い、無門が近づいていく。
【感想】
戦国時代の天正伊賀の乱を舞台に、忍びVS侍の戦いを描いた異色のエンターテイメント作品。史実をなぞりながら、うまく娯楽性を融合させた良作だったと感じる。冒頭の伊賀者同士の小競り合いからコミカルに描かれる金だけが行動理由の忍びたちの姿と、それそれの立場や思いを背負いシリアスに描かれる織田信雄と伊勢の武将たち。コミカルな部分とシリアスな展開とがうまく行き来し、視聴者を飽きさせないつくりになっている。
大野智演じる無門と鈴木亮平演じる下山平兵衛との決闘のアクションや、織田軍と伊賀衆の決戦の場面など、見ごたえのある映像になっているが、単なる娯楽作品ではなく、他人に無関心な忍びたちの姿を現代人に重ね合わせたり、Hey! Say! JUMPの知念侑李が演じた織田信雄は多くのドラマや映画でバカ殿扱いされてきたが映画「忍びの国」の中では、分不相応な役割を与えられ、自身の力不足に悩み、父親に対する複雑な感情に苦しむ……そんな、普通の青年として描かれていたりするなど、現代に通じるテーマを浮き彫りにしようとした作品であると感じた。