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ダンケルク(2017年)





DATE

DUNKIRK/イギリス,アメリカ,フランス,オランダ
監督 : クリストファー・ノーラン

<主なキャスト>

トミー : フィン・ホワイトヘッド
ピーター : トム・グリン=カーニー
コリンズ : ジャック・ロウデン
アレックス : ハリー・スタイルズ
ギブソン : アナイリン・バーナード
ウィナント陸軍大佐 : ジェームズ・ダーシー
ジョージ : バリー・コーガン
ボルトン海軍中佐 : ケネス・ブラナー
謎の英国兵 : キリアン・マーフィー
ミスター・ドーソン : マーク・ライランス
ファリア : トム・ハーディ
            ……etc

目次
『ダンケルク(2017年)』の作品解説
キーワード『ダンケルク大撤退(1940年)』
『ダンケルク(2017年)』のストーリー
『ダンケルク(2017年)』の感想


【作品解説】

 日本では2017年9月に公開された第二次世界大戦のヨーロッパ戦線でのダンケルク大撤退を舞台にしたイギリス、アメリカ、フランス、オランダの四ヵ国による戦争映画。陸の7日間、海の1日間、空の1時間。それぞれ異なる時間軸で展開される物語が終盤一つに収束していく物語と、臨場感と緊張感あふれる映像が高い評価を受けた作品で第90回アカデミー賞では8部門にノミネートされ、編集賞、録音賞、音響編集賞を受賞した。




【ダンケルク大撤退(1940年)】

 第一次世界大戦(1914年〜1918年)で多くの領土を失い、多額の賠償金を支払うことになった敗戦国ドイツ。そんなドイツの国家元首(総統)となり君臨した国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の指導者、アドルフ・ヒトラーはドイツの尊厳を取り戻すためとオーストリアの併合(1938年3月)やチェコスロバキアの解体(1939年3月)など勢力を拡大していた。イギリス、フランスといった連合国は当初はドイツを刺激しないよう積極的な行動は避けていた。

 1939年9月のドイツによるポーランド侵攻によって第二次世界大戦が勃発する。ドイツに対して宣戦布告したイギリス、フランスだったが、自国領を戦場にすることを嫌った両国は、積極的な軍事行動を避け経済封鎖を行うが、ドイツはソ連やイタリアから資源の供給を受けてその勢いは衰えなかった。ドイツ側も当初は連合国への攻撃を最小限にとどめ、牽制しあっていた。しかし、ドイツはデンマーク・ノルウェー、続いてオランダ・ベルギーへと侵攻し、大戦勃発後の1940年5月にはフランスに迫っていた。イギリス軍、フランス軍もベルギー北部に主力を送り、フランスはドイツの国境線であるマジノ要塞を挟んでドイツ軍と対峙する。この頃、イタリアもドイツ側に立って参戦し(正式には6月10日)、ドイツは破竹の勢いで西ヨーロッパを制圧していった。

 ドイツ軍はフランス軍の防御が手薄となっていたフランス北部のアルデンヌの森を突破し装甲部隊を西進させた。ドイツ軍の電撃的な侵攻を前にフランス軍の防衛は後手後手に回り壊走した。増援のイギリス軍も敗戦を重ね、フランス北部の沿岸へと追い込まれた。24日にドイツ軍はカレーを包囲し、イギリス軍にとって唯一の退却港となったフランス北部の港町、ダンケルクへドイツ軍が迫る中、5月にイギリスの首相に就任したウィンストン・チャーチルは5月26日、連合軍の撤退作戦――ダイナモ作戦を実行に移す。イギリス空軍・イギリス海軍の支援の下、軍艦のみならず貨物船や漁船、遊覧船などの徴用した民間船も含めて900隻近い艦船を投入しての大規模撤退作戦であった。イギリス海軍イギリスにとって僥倖だったのは、空軍力のみで撤退を阻止できると踏んだヒトラーが機甲部隊を温存するために24日から2日間、ダンケルクへの侵攻を止めたことだった。

 これによってフランス軍は防衛線を強化することができ、5月28日にベルギーが降伏し、連合軍が拠点であったベルギー西部のフランドルを放棄したため、将兵40万に膨れ上がった退却兵にも対応することができた。ドイツ空軍の空爆に晒されながら小型船艇で沖合に停泊させた大型船へと移送し、小さくない損害は出しながらも6月2日までにイギリス軍22万4千人、連合軍11万4千人を撤退させることに成功した。カレーで包囲されていたイギリス軍は、ドイツ軍を引き付けておくために見殺しにせざるをえなかった。この撤退作戦で連合軍は莫大な量の火砲、火器、車両などをほとんど全て放棄して失い、撤退作戦でも船舶や支援の航空機を数多く失い、この後しばらくの間兵器不足に悩まされることになった。しかし、この撤退作戦の成功によってイギリスの士気を大きく高め、その後の反転攻勢への人的資産の確保ができた。逆にドイツ軍がダンケルク攻略に地上部隊の投入を躊躇い、防衛線の強化と撤退作戦への時間的な余裕を与えてしまったのは、ドイツの西部戦線最大の失敗の一つであった。ダンケルクはその2日後に完全に占領された。ドイツは侵攻の手を緩めず、6月14日にはパリが陥落し、フランスは22日に降伏した。


【ストーリー】

 ドイツ軍が迫るフランスの港町ダンケルク。イギリス兵のトミーは、仲間たちをドイツ兵の銃撃によって失い、命からが逃れてきた。ダンケルクの浜辺には、救助を待つイギリス軍の兵士が列をなしていた。トミーはそこで寡黙なギブソンという兵士と知り合う。イギリスの船に乗せられるのはイギリス兵のみ。フランス兵を乗せる余裕はなイギリス兵にしても優先されるのは負傷兵とその付き添い。その間にも、ドイツ空軍の空爆によって死傷者は増え、救助の船は無常にも撃沈されていく。トミーはギブソンの提案で、防波堤の影に隠れて乗船のチャンスをうかがうことにする。さらに、トミーとギブソンは撃沈された船からアレックスという兵士を救助し、三人で行動を共にすることに。夜になり、何とか救助船に潜り込んだ三人だったが、その船も魚雷を受け、再びダンケルクの浜辺に戻ることになってしう。

 イギリスからはこの撤退作戦のために民間船も徴用されていた。小型船の船長ドーソンは、息子のピーターとその友人のジョージとともに、危険を顧みず現場へと向かう。その途中でイギリス兵を救出するが、戦場を経験してきたイギリス兵は錯乱状態に陥っており、ダンケルクに向かうと知ると頑なに拒否して港に戻るように声を荒らげる。そのいざこざの中で、ジョージが頭を負傷し意識が無くなっていく。ドーソンは国に戻るか救助に向かうかの選択を迫られる。

 撤退作戦の支援のために出撃したイギリス空軍も、ドイツ空軍との戦いの中に身を投じていた。ファリアとコリンズが所属するスピリットファイアの小隊はリーダーとの連絡が取れなくなっており、ファリアが指揮を執っていた。そのファリアの機も銃撃によって燃料のメーターが壊れ、残量が分からなくなっていた。コリンズが残量を伝えながら作戦を展開するが、コリンズも堕とされ、何とか海面に不時着するが、搭乗口が開かなくなってしまっていたため脱出できず、コリンズは流れ込んでくる海水の中で溺死の恐怖が迫る。

 浜辺でトミーたちは別の兵士たちと合流し漂着した船が打ち上げられているのを見つける。ダンケルクの浜辺が満潮になれば出航できるはず。トミーたちはその中でやり過ごすことに決めるが、ドイツ兵からの銃撃を受け、船には沢山の穴が開く。満潮になり始め、船には海水が流入してくるが、外にはドイツ兵が待ち構えている。誰かが外に出て犠牲にならなければ全滅してしまう――という状況の中、ギブソンがフランス兵で助かりたいために死んだイギリス兵の軍服やタグを盗んでいたことが発覚する。船の中にはさらに海水が入ってきて、ギブソンを含め逃げ遅れた兵士たちはことごとく溺死する。生き残ったのはトミーとアレックスだけだった。ダンケルクの沖には、大型の軍用船がドイツ空軍によって次々撃沈させられる中、数多くの小型の民間船が危険を顧みず救助に駆けつけていた。


【感想】


 第二次世界大戦初期の重大な局面とも言われるダンケルクの大撤退を描いた作品。もしも、連合軍をダンケルクに追い詰めるた後、時間的余裕を与えなければ第二次世界大戦の西部戦線の趨勢は大きく変わったかもしれない――そんな戦いだが、政治的・戦略的な知見ややり取りは劇中に出てくることはほとんどない。出てくるのは、懸命に生きようともがく兵士たち、助けるために命を賭ける名前も残らない英雄たち。3つの異なる時間軸で展開される異色の物語構成は、良質のタイムサスペンスといった感じで、緊張感ある作品である。戦闘場面や戦争というドラマをなるべく排し、人間ドラマに絞った戦争映画だったと感じる。