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ミッドウェイ(2019年)





DATE

MIDWAY/アメリカ,中国,香港,カナダ
監督 :ローランド・エメリッヒ

<主なキャスト>

ディック・ベスト大尉 : エド・スクライン
エドウィン・レイトン少佐 : パトリック・ウィルソン
チェスター・ニミッツ大将 : ウディ・ハレルソン
ウェイド・マクラスキー少佐 : ルーク・エヴァンス
ジミー・ドゥーリトル中佐 : アーロン・エッカート
山本五十六海軍大将 : 豊川悦司
山口多聞少将 : 浅野忠信
南雲忠一中将 : 國村隼
アン・ベスト : マンディ・ムーア
ウィリアム・ハルゼー中将 : デニス・クエイド
                     ……etc

目次
『ミッドウェイ(2019年)』の作品解説
キーワード『ミッドウェー海戦(1943年)』
『ミッドウェイ(2019年)』のストーリー
『ミッドウェイ(2019年)』の感想


【作品解説】

 日本では2020年9月に劇場公開されたアメリカ制作の戦争映画。一部の日本軍人には日本人の有名俳優を起用して、太平洋戦争の転換点となった1942年6月のミッドウェー海戦を題材にしている。批評家からは賛否両論があったが、現代の特殊映像をフルに活かし、当時の日米両軍に敬意を払いながら、運命の三日間とそこに至るまでを描いている。




【ミッドウェー海戦(1943年)】

 1942年12月8日に、大日本帝国海軍はハワイの真珠湾に奇襲攻撃を仕掛け、日本とアメリカ合衆国との間に戦争――太平洋戦争が始まった。真珠湾攻撃で勝利を収めた日本軍は、その後も連戦連勝を重ねていた。潜水艦によるアメリカ本土攻撃も行われた。しかし、連合艦隊司令長官・山本五十六大将の目論んでいた緒戦でアメリカに甚大な損害を与え、太平洋の制海権・制空権を保持して南方戦線を優位に進め、対米戦を早期講和に持ち込むという戦略は想定通りに進んでいるとは言い難かった。1943年4月にはアメリカの空母から発進した戦略爆撃機B-25、16機による初めての日本本土空襲(ドーリットル空襲)が実行され、被害は軽微だったが日本に衝撃を与えた。

 ドゥーリットル空襲が起こる前、3月に南鳥島にも空襲が行われており、日本本土攻撃が現実味を帯びる中、アメリカ機動艦隊を殲滅する作戦の立案が必要となった。ハワイ北西部のミッドウェー島には、アメリカ軍の重要な中継基地があったため、連合艦隊司令部は、ここを攻略占拠することで太平洋のアメリカ軍に圧力を掛けつつ、ミッドウェー島奪還のために出撃するであろうアメリカ機動艦隊を殲滅する作戦を立てた。これに対し、海軍軍令部は仮にミッドウェー島の占拠に成功しても補給が難しく長期にわたって占拠し続けることが困難であることなどを理由に反対した。しかし、ドゥーリットル空襲が起こりアメリカ軍による日本本土攻撃が現実となったため、なし崩し的に作戦は実行に移されることになった。海軍軍令部は、アメリカ軍を分散させるためにミッドウェー島の北方のアリューシャン列島への同時攻撃の作戦を提案し、連合艦隊司令部もこれを受け入れた。

 作戦決行日は6月7日に定められた。投入されたのは空母6隻、戦艦11隻、巡洋艦23隻――連合艦隊が持てる力を挙げてこの戦いに挑んだ。軍艦の操舵技術や、航空機の飛行技術においても、日本海軍の方が優れていた。しかし、その作戦目標をミッドウェー島の攻略と、防衛のために乗り出してくるであろうアメリカ海軍の殲滅とを挙げたため、どちらを優先するかが曖昧になっていた。さらに、アリューシャン列島への陽動作戦によって連合艦隊は戦力を分散させることになり、戦力の集中という戦闘のセオリーから逸脱することになった。山本五十六大将は戦艦「大和」に搭乗し、海戦の最終局面で投入すべく大和を軸とする主力戦艦部隊を空母機動部隊にの500キロ後方に配置したが、この判断は当時から疑問を呈されていたという。さらにアメリカ海軍は暗号解読によってミッドウェー島攻撃を知っており、ミッドウェー島の防備を強化するとともに、虎の子の3隻の空母をハワイに集めて迎撃態勢を整えていた。盤上では日本海軍圧倒的優位な情勢ではあったが、実は不安要素は多かった。

 6月4日――ミッドウェー島攻略の牽制として第二機動部隊によるアリューシャン作戦が開始された。2日に渡るダッチハーバーへの攻撃は濃霧と敵機による迎撃に阻まれさしたる戦果は収められなかった。しかし、アッツ・キスカ島の占拠には成功する。この戦いで墜落した零式戦闘機をアメリカ軍が捕獲し、日本の主力戦闘機の能力の全貌がアメリカ軍に知られることになった。後にアッツ島は太平洋戦争で最初の玉砕の島となり、包囲されたキスカ島からの守備隊の撤収作戦は「奇跡の作戦」と称されることになる……が、それは後の話。ミッドウェー海戦においてアメリカ海軍は連合艦隊の動きを完全に把握しており、陽動に乗ることなく、ミッドウェー島に迫る南雲中将率いる第一機動部隊の迎撃にあたった。

 6月5日早朝、南雲中将率いる機動艦隊がミッドウェー島への攻撃を始め、第一次航空攻撃隊がミッドウェー島に空爆を行う。ミッドウェー島の防衛隊は航空攻撃に対して対空砲のみで応戦し、戦闘機は機動艦隊への攻撃に投入した。第一次航空攻撃では滑走路の破壊には至らず、指揮官の友永大尉は「二次攻撃の要あり」と打電する。ミッドウェー島を飛び立ったアメリカ軍の攻撃隊は、第一機動部隊の艦載機によって落とされ、第一機動部隊の損害は皆無だった。ミッドウェー島を攻略するのに火力不足と考えた南雲中将は敵艦隊攻撃用の爆弾を対地攻撃用の爆弾に変更を命じるが、兵装転換に手間取り遅れが生じてしまう。その頃、索敵機が、ミッドウェー島東方の海上にアメリカ艦隊を発見した。アメリカ艦隊との戦いはミッドウェー島攻略の後になると考えていた南雲中将は虚を突かれた形となり、対地攻撃用に準備していた兵装を再び対艦攻撃用に変更する命令を出す。アメリカ艦隊の指揮官であるフレッシャー少将は攻撃隊を出すものの、迎撃した零式戦闘機に撃墜される。しかし、後続の艦載機は急襲に成功し、急降下爆撃によって正規空母「赤城」「加賀」「蒼龍」が被弾。兵装転換作業の最中であったことも災いし、弾薬や燃料に次々と誘爆して収拾がつかなくなった。蒼龍、加賀が立て続けに爆沈し、復旧困難となった赤城も自沈した。

 最後の頼みとなった正規空母「飛龍」は、山口中将の指揮の下、アメリカ艦隊に向けて零式戦闘機を発進させた。二次に渡る航空攻撃によってアメリカ艦隊の空母「ヨークタウン」を大破させ、戦線を離脱させた。ヨークタウンは、その後、日本海軍の潜水艦「伊168」の魚雷によって沈没した。しかし、アメリカ艦隊の索敵機がついに飛龍の位置を確認し、飛龍にアメリカ艦隊の艦載機が殺到する。そして、ついに500キロ爆弾4発が飛龍に被弾。大破炎上した。山口中将、加来艦長は、飛龍の乗員を退艦させ、自分たちは沈みゆく飛龍と運命を共にした。正規空母4隻を失う大敗に山本大将は作戦の中止を下令した。ミッドウェー海戦の敗北によって、日本海軍は積極的に攻勢に出る能力を失い、日本が優勢だった太平洋戦争の形成は完全に逆転し、その後の日本は終始劣勢に立たされることになる。


【ストーリー】

 1937年12月、東京駐在のアメリカ海軍武官・情報将校エドウィン・T・レイトン少佐は、日本側の主催で開かれた帰国する米海軍将校の送別会の会場で、日本帝国海軍総司令官、山本五十六大将と言葉を交わす。山本はレイトンに、「石油の大半を輸入に頼っている日本に対し、アメリカが石油の供給を断つようなことがあれば、日本には戦争以外の道が無くなる。日本を追い詰めないように」と警告をする。レイトンは山本が決して戦争を望んでいるわけではないことや、自分にアメリカで日本を刺激しないように動くことを望んでいることを知り、尽力することを約束する。

 それから4年経った1941年――。日本とアメリカの関係は悪化の一途を辿り、開戦は間近に迫っていた。12月7日、アメリカ海軍の空母エンタープライズの艦載機パイロット、ディック・ベストは、紹介飛行を終えて帰還した際、訓練と称してエンジンを切ってフラップを使用しない着艦を行い、それを知った上官から続く哨戒飛行から外されてしまう。その頃、ハワイ州オアフ島、真珠湾に日本軍の戦闘機が強襲。虚を突かれた真珠湾には、地獄絵図のような光景が広がる。この時、太平洋艦隊情報部に所属していたレイトンは、自宅から基地に向かう。レイトンは、日本軍による先制攻撃を予測していたが、その警告を受けたアメリカ海軍太平洋艦隊司令長官のキンメルは真面目に取り合わなかった。そのことが、悲惨な結果を招いた失態を深く認識したキンメルは、自身が更迭されることを覚悟し、レイトンに後任のの司令長官には強く警告するように勧めた。太平洋上にいるであろう日本海軍の艦隊を探し、空母エンタープライズからも艦載機が飛び立つが、発見に至らなかった。真珠湾に入ったベストは、妻が無事であることを知り安堵するものの、変わり果てた友人の遺体を見て愕然とする。

 日本では山本司令長官はアメリカ軍が本気で立ち上がることで起こるであろう未来を予想し暗鬱な気持ちになっていた。山口多聞中将は真珠湾を徹底的に破壊していたら、アメリカ海軍は向こう1年間はハワイの基地えを使なかったはずと口惜しさを山本司令長官に訴える。そして山口中将は、総指揮を執った南雲忠一中将が、アメリカ軍にさらなる打撃を与えるための追加攻撃を行わなかったことで、その機会をみすみす逃したことを理由に、更迭を進言する。しかし、真珠湾大勝利の立役者として名を上げた南雲を更迭することは、海軍の中でも不興を買うことが予想され、山本司令長官も処分を下すことができなかった。

 新たなアメリカ海軍太平洋艦隊司令長官に就任したのはチェスター・ニミッツ大将であった。ニミッツは真珠湾の敗北は自分の責任でもあると考えていたレイトンに引き続き情報将校として日本海軍の次なる攻撃目標を探るように命じる。真珠湾攻撃から5ヶ月が経った1942年4月18日。空母ホーネットを飛び立ったジミー・ドゥーリトル中佐が率いる爆撃機部隊が日本本土に爆撃を行う。ついに日本本土が攻撃されたことに驚愕した山本は、ミッドウェー島を攻撃する作戦を実行に移す。レイトンは、日本海軍の暗号通信を傍受し、ミッドウェー島が次なる攻撃目標ではないかと考える。しかし、その情報は断片的で信頼性に欠け、さらに日本海軍が艦隊の一部を珊瑚海に差し向けたことから、ワシントンのアメリカ海軍参謀本部は珊瑚海が決戦の場と考えていた。レイトンは、暗号通信に偽情報を潜り込ませ、日本海軍の暗号通信にその内容が出てきたことから、日本海軍の次なる攻撃目標はミッドウェー島であると確信する。

 来るべき決戦に備え、ベストは航空部隊の指揮官に抜擢される。しかし、操縦技術は群を抜いているが破天荒な性格のベストは、部下たちから信頼されていなかった。しかし、豪胆で物事に動じないベストは頼られるようになっていく。ついに、空母エンタープライズにも、日本艦隊との戦いのために出撃するよう命令が下される。前哨戦となった珊瑚海での海戦でもアメリカ海軍は敗北を喫しており、エンタープライズの乗員や艦載機パイロットたちも不安を隠せない。ベストは彼らを鼓舞し、勝利して生還することを誓い合う。6月5日早朝、ミッドウェー島に日本の空母から発進した戦闘機部隊が飛来し、爆撃を行う。ここに太平洋戦争の転換点となるミッドウェイ海戦が幕を開けた。


【感想】

 太平洋戦争の転換点となったミッドウェー海戦をローランド・エメリッヒ監督が映画化。……と聞いて、派手なアクション満載のトンデモ歴史映画かと思っていたが、実際見てみると思っていたよりもずっと真面目な戦争映画である。ハリウッド映画ということもあってその多くがアメリカ側の視点で描かれているものの、日本側の立場や視点から描かれる部分も多く、好感が持てる。シナリオは少々荒く感じるものの、ミッドウェー海戦の死闘とそこに至るまでのストーリーを2時間強にまとめようと思ったら、どうしても端折らざるをえない部分も出てくるだろう。かといって派手さとは無縁な地味な映画かと言えばそうではなく、青い空と青い海を舞台に描かれる空戦の場面は圧巻。CGをフル活用した迫力満点の映像に仕上がっている。同時に名前も出てこないパイロットたちが無造作に命を落としていく様をしっかりと描いている。CGの戦闘シーンが凄いだけに――凄いからこそ、その虚しさが一層際立って見える。展開が早いので、事前に予習があったほうがより楽しめるようにも感じた映画だったが、当時のアメリカが、映画で描かれているほど日本を怖れていたのは意外に感じる。