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この世界の片隅に(2016年)





DATE

日本
監督 : 片渕須直
原作:こうの史代「この世界の片隅に

<主な声の出演>

北條(浦野)すず:のん
北條周作:細谷佳正
黒村晴美:稲葉菜月
黒村径子:尾身美詞
水原哲:小野大輔
浦野すみ:潘めぐみ
白木リン:岩井七世
        ……etc

目次
『この世界の片隅に(2016年)』の作品解説
キーワード『呉軍港空襲(1945年)』
『この世界の片隅に(2016年)』のストーリー
『この世界の片隅に(2016年)』の感想


【作品解説】

 2016年11月に劇場公開された『この世界の片隅に』の原作は、双葉社の『漫画アクション』に2007年から2009年にかけて連載されたこうの史代の同名漫画。太平洋戦争中の広島の呉を舞台に、のんびり屋のヒロインが持ち前の優しさや明るさや楽天な性格で困難な時代を慎ましくも楽しく過ごしていく様と、その生活や幸福が戦火に?み込まれていく様を描いている。この漫画は2011年には日本テレビ系で終戦記念スペシャルドラマ、2018年にTBS系で連続ドラマが制作・放送されている。

 2016年の劇場アニメは、公開当初は日本国内63館であったが徐々に公開規模を拡大していき、最盛期には300館を超え、DVDやBru-rayが発売された後も公開が続く大ヒットロングラン上映となった。第90回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位、第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞などを獲得する評価の高いアニメーションとなった他、国外でも60ヶ国以上で上映された。ロングランヒットとなったことを受けて2019年12月に40分の新規映像が追加された『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開された。




【呉軍港空襲(1945年)】

 広島県呉市は、江戸期以前から天然の良港として知られ、明治時代には帝国海軍の第二海軍区呉鎮守府が置かれる要衝であり、戦後も海上自衛隊の呉地方総監部・呉地方隊などが置かれ海上防衛の重要な拠点となっている。また、1940年当時、世界最大の戦艦であった「大和」が建造された呉海軍工廠(軍需工場)があったことでも知られている。そんな要所であったため、1945年3月19日に呉軍港を狙ったアメリカ海軍の艦載機約350機による激しい攻撃が行われた。同年5月5日に隣接する地域にあった広工廠、6月22日に軍港内の呉工廠が相次いで攻撃の対象となる。さらに7月下旬には複数回にわたり呉軍港が空襲された。防戦する日本軍もアメリカ海軍にも少なからぬ損害を与えたものの、一連の戦いによって呉軍港の軍属数百人の死者と数千の負傷者が出た。また7月1日夜から2日未明にかけて呉市街地を狙った大規模な空襲が行われ、一般市民に約2000人の死者、約125000人が家を失ったという。


【ストーリー】

 広島県広島市に両親、兄、妹と暮らす主人公のすずはのんびり――というよりぼんやりした女の子。得意な絵で虚実交えた物語を描くのが好きな女の子である。18歳になった1944年(昭和19年)2月、急な縁談話が持ち上がる。ぼんやりしたすずを置いてけぼりにして、あれよあれよという間に話は進み、気が付くと婚礼は終わり、軍港の街、呉で新しい家族とともに暮らすことになった。夫となった北條周作は海軍で働く書記官。周作の方はすずと昔会ったことがあるようで、すずもどこかで覚えがあるような気がするがはっきりしない。

 録事さんと呼ばれる周作のことを六時に帰ってくるから“ろくじ”さん、などと思ってしまうほど相手のことを知らないまま始まった結婚生活だったが、穏やかな義両親やすずとは正反対のてきぱきとした義姉・径子、すずにすぐに懐くようになった径子の娘・晴美などと、見知らぬ土地での生活に戸惑い、戦況の悪化で配給物資が次第に減っていく中、嫁としての務めを果たしていく。そんなある日、道に迷っていたところを遊女のリンと出会う。リンは周作とも浅からぬ縁があるようですずは強い嫉妬を覚える。さらに激しくなっていくアメリカ軍による攻撃は、すずからも大切なものを容赦なく奪い去っていく……。


【感想】

 戦争の中でも、その日その日を必死に生きる一人の女性を主人公にした作品。慎ましく細やかな幸せを求めて耐え忍びながら生活しているすずからも、戦争は身内を、親を、奪い去っていく。優しい絵柄で淡々とした描かれ方で、戦争の悲惨さや泣かせてやろうという演出を前面に押し出した作品ではない。これまでの戦争を扱ったアニメーションとは一線を画した作品になっていると感じた。悲惨な戦争の中でも、人は楽しくて笑うし、恋もするし嫉妬したりもする。

 戦時下を舞台にしたアニメなのでつらい経験をした人たちが多く出てくる。母を失った子供。住む人のいなくなったすずの実家に潜んでいた幼い兄弟。生きるということは辛く厳しく困難を伴うものだが、しかし劇的だ。特に、この世界の片隅で、たった一人の大切な人に出会えたのなら。戦時下という特殊に思われる世界を描きながら、時代が変わろうとも変わらない不変のテーマを描いた作品だったのではないかと感じる。