さよなら、アドルフ(2012年)
DATE
Lore/オーストラリア,ドイツ,イギリス
監督 :ケイト・ショートランド
<主なキャスト>
ローレ : サスキア・ローゼンダール
トーマス : カイ・マリーナ
リーゼル : ネレ・トゥレープス
ローレの母 : ウルシーナ・ラルディ
ローレの父 : ハンス=ヨッヘン・ヴァーグナー
……etc
【作品解説】
日本では2014年1月に劇場公開された。敗戦後のドイツを舞台に、敗戦によって価値観が大きく変わってしまった社会の姿を、一人の少女の目を通して描いている。第85回アカデミー賞外国語映画賞にオーストラリア代表として出品されたが、最終選考には残らなかった。
【敗戦後のドイツ】
1945年4月30日に、ナチス・ドイツ第三帝国の国家元首であったアドルフ・ヒトラーが自害。連合国軍と交戦していた各軍団は、5月7日にフランスのランスで連合国に無条件降伏。5月9日にはベルリンでソ連軍に降伏した。6月5日、連合国軍によってベルリン宣言が発令された。これにより、ドイツの中央政府が消滅したことと、アメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦によりドイツの分割占領統治が始まったことが発表された。ドイツとの交戦で被害がもっとも甚大だったソビエト連邦は賠償を優先することを望んだが、アメリカ、イギリスは経済の復興を優先することを主張。その反目はアメリカ・イギリスの統治地域とソビエト連邦統治地域とによるドイツの東西分裂のきっかけとなった。
【ストーリー】
1945年春。ドイツは連合軍が制圧しつつあり、第二次世界大戦は終わりに近づいていた。14歳の少女ローレの父親はナチスの高官であり、医者の母、年の近い妹、少し年の離れた双子の弟、生まれたばかりの赤子の家族7人で何不自由ない幸せな生活を送っていた。ローレはナチス・ドイツの勝利を信じていた。しかし、ドイツが連合軍に降伏したことでローレの信じていた価値は崩壊する。ナチス総統アドルフ・ヒトラーの下で残虐な行為を繰り返してきたナチス幹部や親衛隊などは次々と拘束されていた。ローレの家族も極秘の史料などを焼却し夜逃げ同然に豪邸を後にし、農家に身を寄せる。しかし、父親も拘束されてしまい、そのまま二度と会うことはなかった。
家から持ち出した貴金属などを処分しながら厳しい暮らしを続けていたが、母親も当局に捕まることになる。帰ってこなかったらハンブルグにいる祖母を頼るようにとローレに告げる母親だったが、そこまで約900qの道のりであった。しかし、母親も戻らず、農家の家主にも追い出され、祖母のところまで向かうことに。分割占領されたドイツで電車も使えず、歩いていくことに。ナチスが崩壊したことにより荒んだドイツで、道行く行く先々でナチスが犯してきた様々な罪と、占領国家の人間となってしまった現実を突きつけられるローレたち。その途中でローレを救ったのは偶然出会った青年トーマスだった。しかし、彼は今まで蔑んできたユダヤ人だった。
【感想】
主人公の少女を通して、崩壊した国家、敵――それは連合国軍の兵士ばかりではない――に囲まれ、助けてくれる者はおらず、今までの価値観は全てひっくり返されてしまった状況、その中で生きようとする姿を描いている。少女の成長の物語……しかし、そこにあるのは年齢相応の健全な成長ではない。今まで自分が信じていた特権階級としての地位や民族としての誇りが、現実の無力さの中でガラガラと崩れていく残酷さ。敗戦という現実をしっかりと描いた作品だったと思う。
映像は素晴らしかったが、全体的に暗く、カメラワークも見ていて非常に疲れる、と感じた作品。ラストでは彼女は現実の重みに耐え切れずに心が壊れてしまったかのような描写で終わっている。彼女が立ち直ったのか、それともそのまま耐え切れずに自暴自棄になって――あるいは死を選ぶような結末があるのか。人によっては「ローレも加害者側だった」「弱者を食い物にして得た特権を甘受してきた」と言うかもしれない。そういった面を否定する気はないが、それでも彼女らの未来に幸あらんことを、と思う。