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ラストゲーム 最後の早慶戦(2008年)





DATE

日本
監督 : 神山征二郎

<主なキャスト>

戸田順治 : 渡辺大
黒川哲巳 : 柄本佑
相沢陽一 : 和田光司
近藤宏 : 脇崎智史
南里光博 : 阿部新
笠原忠之 : 永井浩介
戸田栄一 : 久保田裕之
飛田穂洲 : 柄本明
田中穂積 : 藤田まこと
小泉信三 : 石坂浩二
         ……etc

目次
『ラストゲーム 最後の早慶戦(2008年)』の作品解説
キーワード『出陣学徒壮行早慶戦(昭和18年(1943年))』
『ラストゲーム 最後の早慶戦(2008年)』のストーリー
『ラストゲーム 最後の早慶戦(2008年)』の感想


【作品解説】

 太平戦争最中の1943年。戦局が悪化していく中、徴兵を猶予されていた学生たちも方針が変更され戦地へと送られることになる。もう二度と日本の土を踏むことはないかもしれない。せめて最後に試合を――早慶戦をしたい。若者たちの思いと、それを実現しようと奔走した大人たちの最後の早慶戦とも呼ばれる実話をモチーフに描かれた作品。最後の早慶戦から65年となる2008年8月に劇場公開された。




【出陣学徒壮行早慶戦(昭和18年(1943年))】

 日中戦争、太平洋戦争と、日本は泥沼の戦争に突き進んでいく。日本国内が戦時色で蔓延していく中、野球は敵性スポーツとして弾圧の対象となっていた。中等学校野球や都市対抗野球は1942年には中止に追い込まれていた。東京六大学野球も1943年4月に文部省によってリーグ解散令が強行され、加盟校の活動も停止に追い込まれていった。大学や専門学校などに在学中の学生には26歳まで徴兵が猶予されていたが、戦局も悪化の一途をたどり兵力不足が深刻化していくとその対象は狭められていった。昭和18年(1943年)10月には文科系の学生への徴兵延期が中止された。

 軍に入る前に、せめて最後に試合を、最後に早慶戦を、という思いから慶応義塾大学の小泉学長を通じて早稲田大学に早慶戦が打診された。学生野球の聖地である神宮球場の使用を、小泉塾長直々に文部省と交渉しても良いという熱の入れように、早稲田大学野球部の監督や部長たちは快諾し、早稲田大学野球部は歓喜した。しかし、この時期に大勢の観客を入れる試合を行うことで軍部や文部省からにらまれることを恐れる早稲田大学当局は、この申し出に難色を示した。当時の田中総長が開催の許可を出さないまま、10月16日に早稲田大学の戸塚球場で早大戦を強行することが決められた。一説には早稲田大学の黙認があったとも言われる。ところが新聞に10月16日13時試合開始という記事が出てしまう。このままでは大勢の観客が押し寄せてしまうと慌てた早稲田大学当局は、試合開始を早めて正午までに終わらせるように求める。しかし、ようやく試合にこぎつけた選手たちはこれに応じず、慶應義塾大学野球部や応援の学生たちを迎え、正午頃からの試合開始となった。

 試合は一般には非公開で、両行の学生や部員の家族、野球部のOBなど、ごく一部に解放された。慶応義塾大学の小泉塾長は用意されていた特別席ではなく、学生とともに応援するために学生席に座ったと伝えられる。試合は10対1で早稲田大学が勝利した。早稲田大学側の調整が難航する中、慶應義塾大学野球部の学生も家族との最後の別れするため実家に帰っており、演習不足は否めないままでの試合であった。しかし、この試合は勝敗など関係なく全力で、最後になるかもしれない野球を楽しんだ。試合を終え、互いに校歌、応援歌を歌いあったのち、海ゆかばが歌われた。翌日の毎日新聞の記事では、「どこからともなく歌はれる『海行かば』の厳粛な歌声、それがやがて球場を圧する大合唱と変った」と伝えたという。その5日後、土砂降りの中、出陣学徒壮行会が挙行された。学生たちのなかには生きて祖国の土を踏むことができなかった者も多かった。1943年10月16日の早慶戦に関わった野球部員にも多くの戦死者が出た。戦後、六大学野球リーグも復活し、早慶戦も復活した。しかし、戦争の中で「もう二度と野球はできないかもしれない」「これで最後になるかもしれない」という悲壮な覚悟の中で戦われた1943年の早慶戦は、最後の早慶戦と呼ばれて現在にも語り継がれている。


【ストーリー】

 戦況が悪化する1943年。早稲田大学野球部員の戸田順治の兄で、帝国陸軍の軍人の兄・栄一が帰省してくる。見習士官である兄は、順治にとって尊敬する兄だった。戦況が悪化し、六大学リーグも解散する中、顧問の飛田の意向で未だに練習を続けている早稲田大学野球部は軍部から目を付けられる存在になっていた。部隊に戻ることになった栄一は、「戦争は俺に任せて、お前は野球をしろ」と語る。しかし、軍は学生に与えていた徴兵の猶予をやめることを決めた。早稲田大学でも一般学生たちがいち早く帰省していく中、野球部は練習を続けることを決める。野球部が練習しているグラウンドで、軍の教練が行われている異様な光景が広がっていた。

 慶應義塾大学の小泉塾長が飛田に会いに来る。最後の思い出のために早慶戦をやらせてあげたいと言う小泉に、飛田は感激し、試合はすぐにでも開催できるかと思われた。しかし、早稲田大学の田中総長は、この時期に早慶戦を行うのは不穏な結果を招きかねないと強硬に反対する。飛田たちが田中総長や早稲田大学の理事会を相手に交渉を進めるが色よい答えが出ないまま、野球部員たちの苛立ちや不安は高まっていく。不安の中で練習を続ける順治のところに、栄一の戦死の報が届く。葬儀の場で、未だに順治が野球の練習を続けていることに順治の父親は複雑な思いを飛田に語る。覚悟を決めた飛田は、早慶戦を学徒出陣壮行試合として強行開催することを決断する。


【感想】

 1943年の実話を基に、大変真面目に誠実に作られた作品だと思う。昔、こういうことがあったのだという事実を知ることは必要だと思うし、一見の価値ある作品だと思う。作品自体は描き方が平板で弱い印象を受けた。軍国主義賛美の作品ではないが、反戦を前面に押し出した作品でもなく感じる。軍人や官憲の姿も、それほど悪役としては描かれていない。戦中を描くときは、もう少し極端な描き方をした方が映画としては面白くなるのは確かなんだろう。

 戦争を知らない世代の人が真摯に戦時中を描こうとしているのは分かるが、戸田順治と兄がグラウンドで語り合う場面なんかは、青春映画ののノリでやっているように感じた。けれど、どんな時代であっても、若者がやりたいことを真剣に一生懸命やれることの素晴らしさや尊さは変わらないのだと感じられる作品だった。