突入せよ!「あさま山荘」事件(2002年)

DATE
日本
監督 : 原田眞人
原作:佐々淳行『連合赤軍「あさま山荘」事件』
<主なキャスト>
佐々淳行 : 役所広司
宇田川信一 : 宇崎竜童
野間長野県警本部長 : 伊武雅刀
佐々幸子 : 天海祐希
丸山昂 : 串田和美
富沢警備局長 : 重松収
兵頭参事官 : 篠井英介
石川警視正 : 山路和弘
後藤田正晴 : 藤田まこと
……etc
【作品解説】
原作は警察庁から派遣された丸山警視監を団長とする指揮幕僚団で、警備実施及び広報担当幕僚長として現地に赴き事件解決に尽力した佐々淳行氏、(当時の階級は警視正。役職は警察庁警務局監察官兼警備局付)が1996年に著した『連合赤軍「あさま山荘」事件』(文藝春秋刊)。
佐々 淳行氏(1930年〜2018年)は元警察・防衛官僚で主に警備警察の道を歩み「東大安田講堂事件」「あさま山荘事件」「皇太子・皇太子妃の沖縄訪問」など学生運動や新左翼のテロに警備実施に関わった。防衛施設庁長官、初代内閣安全保障室長を経て退官後は、危機管理をライフワークとして文芸や講演など多方面に活躍した。
映画『連合赤軍「あさま山荘」事件』は原作では当時の新左翼運動と推移を警察官だった筆者の視点や立場から記しているが、映画『突入せよ!「あさま山荘」事件』ではそのあたりの話は大きく削られ、「あさま山荘」事件の警察側の裏話的な物語となっている。
【あさま山荘事件(昭和47年(1972年))】
1972年(昭和47年)2月19日、新左翼組織・連合赤軍のメンバー5人が、長野県軽井沢の河合楽器製作所の保養所「浅間山荘」に山荘の管理人の妻である27歳の女性を人質に立てこもった。事件の前年に立て続けに凶悪犯罪を引き起こしていた二つの小規模な先鋭的な新左翼組織が群馬県の山中で旗揚げした29名で発足した連合赤軍は、群馬県警の大規模な山狩りなどによって追い詰められていった。17日に最高幹部の男女が逮捕され、一部のメンバーは長野県側に逃走を図るが、警戒中の警察官と銃撃戦となり、浅間山荘に逃げ込んだ末の出来事だった。
事件を受けて警察側は長野県警・警視庁の機動隊約1500名が包囲し対峙した。浅間山荘の中には宿泊客20人分と管理人夫妻の食料があり兵糧攻めは難しかった。さらに、切り立った崖に建てられた山荘は攻めがたく、冬の豪雪地帯の雪と氷は包囲する機動隊の行動を大きく制限した。その上、警察庁からは一切の発砲を禁じられていたため現場は情報収集もままならず、長期戦の様相を見せた。警察は犯人の身内による説得を行うが犯人たちは銃撃でこれに応じた。犯人側からはアジ演説や一切の要求もなく、警察は人質の安否すらわからないまま、説得と突入計画とを進めた。
2月28日午前10時ごろ。最終通告ののち、機動隊による突入が開始された。クレーン車に吊るされた巨大な鉄球により山荘を破壊し決死隊を送り込む作戦が立案された。2階から3階の階段を破壊し、連合赤軍のテロリストが作った銃眼を破壊し、屋根を破壊して巨大な爪に付け替えて引きはがした上で、上から決死隊を突入させる作戦であったが、クレーン車の故障により鉄球作戦の成果は限定的なものとなった。放水車による支援を受けながら山荘内に突入した機動隊員の行く手を山荘中に築かれたバリケードが阻み、激しく抵抗するテロリストからは鉄パイプ爆弾や鉄砲による攻撃が加えられた。
多くの負傷者が出る中、放水を指揮していた高見警部、第二機動隊隊長の内田警部が相次いで殉職。しかし、鉄球によって破壊され放水によって水浸しになった山荘が夜になれば人質も犯人も凍死する恐れが出てくる。作戦の中断は許されなかった。午後6時ごろ。犯人たちを追い詰め5人全員を検挙。人質を解放した。9日間にわたる攻防戦で、死者3名(警察官2名、民間人1名)、重軽傷者27名(機動隊員26名、報道関係者1名)の被害者が出た。
【ストーリー】
1972年2月19日。長野県軽井沢で過激派の捜索にあたっていた県警機動隊の一個分隊が、銃で武装した過激派と遭遇し銃撃戦となる。過激派は近くの浅間山荘へと逃げ込み管理人の妻を人質に取って立てこもった。東京ではイギリスのSASでの爆発物処理の研修を終えて帰ってきたばかりの警察庁警備局付の佐々淳行警視正が、後藤田正晴警察庁長官から呼び出されていた。長野の野間県警本部長は大規模警備の経験がないため、「ちょっと行って指揮してこいや」ということだった。
さすがに警視正の佐々がいきなり現場に行って警視監の県警本部長の代わりに指揮する、などとてもできることではない。そこで佐々が出した代案は野間警視監と同格の人物を長野に送り補佐という形で、というものだった。そこで警備局外事調査担当参事官の丸山昂警視監を団長とする指揮幕僚団が編成され長野へ向かうことになる。このとき後藤田からは「人質を必ず救出すること」「犯人を必ず生け捕りにすること」「火器使用は警察庁の許可事項」などの指示が出された。その厳しい内容に反論する佐々に、後藤田長官は「ヘラクレスの選択」という言葉を返す。
長野で佐々たちを待っていたのは、雪と氷に覆われ天然の要塞と化した浅間山荘と、警視庁の協力なんていらないと息巻く長野県警幹部であった。山荘の食料や燃料の備蓄は十分で兵糧攻めは難しく、山荘の電話もつながらない。武器弾薬もたっぷりある。犯人の母親を呼び説得を試みるが、犯人の回答は銃撃であった。偵察を強行した機動隊員が撃たれ、人質志願の民間人の山荘への侵入と犯人による射殺を許してしまうなど、現場には次々血が流れる。さらに、大規模警備に慣れていない長野県警の不手際。警視庁と長野県警の対立。警察庁からは現場を無視した指示が飛んでくる。
誰もが初めて経験する大規模警備は次第に警察庁・警視庁が主導権を握るようになるが、犯人は変わらず沈黙を守ったままで、人質の安否の確認も取れないままだった。佐々は数年前の東大安田講堂事件の時には許可が下りなかった大型の鉄球による建物破壊の作戦の検討を始めた。
【感想】
最初に見たときは、いったい何を作りたいんだろう、という印象だった。警察側から見た昭和の重大事件の裏話? 長野県警と警視庁の縄張り争いと自負からくるいがみ合い? 命がけの現場で時に起きる悲劇と間の抜けた喜劇のような出来事のギャップ? タイトルに「突入せよ!」なんて単語を入れているあたり、プラトーンのような悲壮な戦場を描いた作品だろうか? 最初から最後までグダグダで、何を描きたいのかわからなかった。そのうえ、緊迫した状況を表現したいのはわかるが、わざと声をかぶせたりして何を言っているのかわからない場面も多く、最初から最後まで置いてけぼりにされた印象を受けた。時代背景とか、連合赤軍――劇中では過激派としか呼ばれていなかったような気がする――が浅間山荘に逃げ込むまでに何があったのか……とか、ナレーションででも組み込んでいけば、もう少しくらいは緊張感があるストーリーになったのでは、と思う。
もっとも、冒頭で「あさま山荘事件をもとにしたフィクション」という断りがつけられている。この時は、人質の名前とか実名にできない部分もあるよなぁ、くらいにしか思わなかったが、最初から自分たちは「あさま山荘事件」ひいてはその頃の新左翼運動や過激派によるテロを描くつもりはないという意思表示をしていたのではないかと後から思う。今にして思えば、描きたかったのは理想のリーダーの姿ではなかったかと思う。命がけの戦場で部下をまとめ上げ、相手が格上であっても間違っていることに関しては直言し、時にマスコミの心無い言葉に怒りを飲み込みながら、後方の家族に危険が及ぶのではないかと案じながら粘り強く事にあたり。「あさま山荘事件」そのものに対するリアルさや正確さ説明不足は、この際目をつぶってもいいくらいの感覚だったのではないかと思う。
とはいえ鉄球作戦のクレーン車の胴体に書かれた社名を堂々とさらけ出していたりするあたり、リアルにこだわる気も、当時の時代感を出す気もないのを隠そうともしていないように見える。なら最初から「あさま山荘事件」なんてタイトルをつけるなよ、とも思ってしまう。当時は、マスコミの中にも新左翼のシンパが大勢いた時代。警察に協力したことがわかればどんな報復があったかわからない時代である。鉄球作戦のクレーン車の社名は消されていたし、クレーン車を操作したのが民間人だということは30年にわたって秘密にされていたという。