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ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜(2020年)




DATE


日本

監督 :飯塚健


<主なキャスト>


西方仁也 : 田中圭

西方幸枝 : 土屋太鳳

高橋竜二 : 山田裕貴

南川崇 : 眞栄田郷敦

小林賀子 : 小坂菜緒

神崎幸一 : 古田新太

原田雅彦 : 濱津隆之

         ……etc


目次
『ヒノマルソウル ~舞台裏の英雄たち~(2020年)』の作品解説
キーワード『長野オリンピック(1998年)』
『ヒノマルソウル ~舞台裏の英雄たち~(2020年)』のストーリー
『ヒノマルソウル ~舞台裏の英雄たち~(2020年)』の感想


【作品解説】


 2021年6月公開。1998年に長野で開催された冬季オリンピックで、スキージャンプ・ラージヒル団体において競技を続行するために吹雪の中ジャンプを行った25人のテストジャンパーの実話をもとにした物語。




【長野オリンピック(1998年)】


 1998年(平成10)に長野県長野市を中心に開催された第18回オリンピック冬季競技大会(][ Olympic Winter Games)。日本で冬季オリンピックが開催されたのは1972年(昭和47)の札幌大会以来、2度目。20世紀最後の冬季オリンピックとなった。1991年6月にイギリスのバーミンガムで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、2002年の冬季オリンピック開催地となるソルトレイク・シティ(アメリカ)などを破っての開催決定であった。

 1998年(平成10)長野市の長野オリンピックスタジアムで当時の天皇・皇后両陛下御臨席の上で、2月7日に開会式、22日に閉会式が行われた。72の国と地域から2300人を超える選手が参加し、16日間にわたって7競技68種目の競技が行われた。日本でも人気競技となったカーリングが正式種目となったのは長野オリンピックからである。日本選手の金5つを含む10個のメダルを獲得する活躍もあって大会は盛り上がり、144万人以上の観客が足を運んだ。

 長野オリンピックは成功に終わり、長野オリンピックで使用された施設はその後、国際大会の会場となったり、国内トップ選手の強化拠点となり、長野は日本国内有数のウィンタースポーツが盛んな土地となっている。しかし残された施設の維持管理費などが負担となっていたり、開催から25年が経過し、大規模な改修が必要だったりして、その負担が重くのしかかっている自治体もあり、肥大化するオリンピックの負の影響であるともいえる。



【ストーリー】


 1998年長野オリンピック。スキージャンプ・ラージヒル団体決勝。日本代表のジャンプを複雑な思いで見つめる男がいた。テストジャンパーとして長野オリンピックのジャンプ種目に携わっている西方仁也。彼は、4年前のリレハンメルオリンピックのジャンプ団体での代表メンバーだった。リレハンメルで日本代表はトップで最終の原田雅彦を迎えていた。しかし、その原田がジャンプに失敗し、無念の銀メダルとなった。自分を責める原田や、応援してくれた人たちのために長野での金を誓う西方だったが、若手の台頭や激しい代表争いに、腰の違和感を言い出せず無理をしてしまい、怪我を負ってしまう。不屈の精神で怪我を克服して、長野の選考を兼ねた大会で優勝するも、代表には選ばれなかった。そんな彼に、テストジャンパーとして参加する話が打診された。

 テストジャンパーは競技を安全に進めるために出場選手に先立ってジャンプする。拍手もなく地味ながらも必要不可欠な役割である。しかし、この間まで選手として長野に出場するために頑張ってきた西方は、複雑な思いとともに参加を承諾する。参加するテストジャンパーには、後輩で怪我をして代表入りを逃した南川や、聾唖者ながら素晴らしい記録を持っている高橋、女子高校生の小林などが参加していた。テストジャンパーとしての役割の重要性を理解はしつつも、先日までの境遇との落差に葛藤しながら、役割をこなす西方。しかし、怪我の影響でジャンプを恐れるようになった南川や女子故に危険なジャンプ競技を親に認めてもらえない小林などの境遇を知り、少しずつ前向きに向き合うようになる。

 しかし、スキージャンプ・ラージヒル団体の前、原田と顔を合わせた西方は、思わず感情を爆発させ、「お前の金メダルなんて見たくない」と口走ってしまう。悔しさを思い出した西方は、原田の1回目のジャンプの時、内心で「落ちろ」と願ってしまう。吹雪が強まり原田はジャンプに失敗。日本代表は4位になってしまう。その上、吹雪は強くなり、ジャンプ競技は中断。このままでは競技が終わってしまい、1回目で順位が決まってしまう。競技運営が下した決断は25人のテストジャンパーが失敗せずに飛ぶことができたら続行するというものだった。外の吹雪は代表クラスでもまともに飛ぶのが難しい危険なものだった。西方は反対し、責任者の神崎もテストジャンパーはモルモットではないと、断ろうとする。しかし、自分たちが飛ばなければ日本代表の戦いもここで終わってしまう。小林が口火を切り、テストジャンパーたちの思いも一つになった。「必ず日本代表に金メダルを!」。拍手も歓声も名誉もないテストジャンパーたちの誇りを背負った戦いが始まった。



【感想】


 1998年長野オリンピックでの知られざる物語。もう25年以上昔で、自分もまだ高校生だったが、船木和喜が飛んで優勝が決まった瞬間に団体メンバーが雪上に転がって抱き合う場面は何となく覚えている。その裏側に、このような物語があったことが衝撃だった。劇中、事情を知らないとはいえテストジャンパーたちが必死に飛ぶ中、「テストジャンプばっかりやってるし〜」と無関心な観客たちと、一人成功するたびに喜びを表現するテストジャンパーたち。この対比が面白い。大舞台で戦う選手たちの裏側にはその何倍もの数の涙を呑んだ選手がいて、選手たちの栄光の裏側にはスポットライトが当たることはなくても裏方としてオリンピックに関わっている人たちがいる。そんな人たちに焦点をあてたという点で、価値のある作品だったと思う。

 主人公である西方選手の強さと弱さ。そして西方選手と原田選手の友情や、西方選手の妻子との絆など、丁寧に描かれてよかったと思う。ただ、オリンピック直前まで歩を進めながらそれが叶わなかった経験をした人はそう多くはないだろう。だから、その悔しさや裏方に回る葛藤は、きっと自分には想像もつかないものだろうと思う。あまり登場人物にクセのある人が少なかったせいでもあろうが、あまりどろっとした感情の部分が弱く、こぎれいにまとまったヒューマンドラマという印象を受けた。