トッカイ〜不良債権特別回収部〜(2021年)

DATE
日本
監督 : 若松節朗,村谷嘉則,佐藤さやか
原作 : 清武英利『トッカイ 不良債権特別回収部』
<主なキャスト>
柴崎朗 : 伊藤英明
葉山将人 : 中山優馬
多村玲 : 広末涼子
塚野智彦 : 萩原聖人
東坊平蔵 : 橋爪功
不破誠三 : 団時朗
二階堂頼明 : 佐野史郎
金丸岳雄 : イッセー尾形
仁科真喜生 : 仲村トオル
……etc
【作品解説】
2021年1月から4月まで放送されたWOWOW開局30周年記念で制作された全12話の連続ドラマ。原作は講談社から2019年に刊行された清武英利氏によるノンフィクション『トッカイ バブルの怪人を追いつめた男たち』。1994年、経営破綻した住専の不良債権の取り立てを目的に立ち上げられた「住宅金融債権管理機構」の中でも、悪質債務者と対峙することになった不良債権特別回収部(トッカイ)の奮闘を描く。
【住専問題(1996年)】
住宅金融専門会社(住専)は、1970年代に大蔵省(現財務省)が主導し、都市銀行、信託銀行、地方銀行、生命保険会社、農林中央金庫などが出資母体となって設立された。銀行と違い、顧客からの預金ではなく借り入れを原資としているためノンバンクに位置づけられる。店舗網を持たず、母体行からの紹介による案件を中心としていた。また、代表者をはじめ大蔵省(当時)のOBが多く天下っており、母体行からも多数の役員が送り込まれていた。
1980年代に入ると、銀行や信託銀行なども個人向けローンに力を入れるようになり、より低金利での借り換えなどにより住専から顧客を奪っていった。あおりを受けた住専は事業者向け不動産業向け貸し出しに傾斜していった。これに目を付けた母体行は、反社がらみの案件や、問題があったり焦げ付きそうな融資を次々と住専に押し付け、不良債権のごみ箱と化していった。
'80年代後半のバブル景気によって地価高騰は加速し、住専の融資額はさらに膨らんでいく。1990年3月に大蔵省から総量規制と呼ばれる金融機関への行政指導が行われたが、住専は不動産向け融資の対象外となり、農協系金融機関は対象外となったため、農協系の金が住専各社、そして不動産投資へと流れていった。しかし、バブル崩壊によって地価は急落。住専8社のうち7社の経営は行き詰まり、住専の名は不良債権の代名詞のようになっていった。回収不能となった不良債権は約6兆5000億にもなり、住専各社は立ち行かなくなった。
1995年6月には連立与党が「プロジェクトチーム」を設置して政治問題化し、1996年の「136回通常国会」は住専の処理を巡る住専国会と化した。この国会で「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」――俗に言う住専処理法が成立。6850億円を1996年度予算の一般会計から支出が決まり、金融機関の不始末を国民の税金で補うということに大きな批判が巻き起こった。債権回収のため1996年7月に元日本弁護士会会長の中坊浩平氏を社長とする住宅金融債権管理機構(後の整理回収機構(RCC))が設立された。
【ストーリー】
1980年代――後にバブル景気と呼ばれる狂乱に沸いた時代があった。地価は無限に上がり続けるという神話が信じられ、銀行は莫大な金を成金実業家たちにつぎ込んでいく。あおば銀行・融資部の柴崎朗の顧客の中に中小企業の社長夫婦がいた。あおば銀行からの融資を受けて家賃収入というもう一つの収入の柱ができたと喜ぶ夫婦に柴崎も嬉しく思っていた。しかし、別の銀行が言葉巧みに誘い込まれ、夫婦はさらなる借金を背負ってしまう。ところが1990年3月に大蔵省が出した総量規制と呼ばれる行政指導によってバブル景気は崩壊。地価は下落していき、銀行の抱える債権は不良債権化していく。柴崎の顧客だった夫婦は借金のために最悪の選択をしてしまう。
総量規制の対象外だった住専は、この機に乗じて融資額を増やしていく。人の夢を手助けしたいと住専社員となった葉山将人だったが、景気の悪化により融資は焦げ付き不良債権化していく様を目の当たりにする。1996年――住専の処理のために公的資金が投入される議論が始まると、マスコミは住専への批判を繰り返し、会社の前には街宣車が繰り出し非難の言葉を繰り返す。検察の特捜部も住専の杜撰な融資の事態を問題視して社員を厳しく取り調べる。国民からも企業の経営破綻の処理のために税金が投入されることに怒りの声が上がる。政府は住専に公的資金を導入する代わりに、不良債権回収を目的とした国策会社「住宅金融債権管理機構(住管機構)」の設立を決め、社長に弁護士の東坊平蔵を据える。「不良債権を1円残らず回収する」とは東坊が掲げた至上命題だったが、その総額は6兆7800億円という途方無い数字だった。
柴崎は住管機構への出向を命じられる。住専の母体行も責任が問われ、住管機構に人員を供給しなければならなかったのだった。柴咲が班長として所属することになった不良債権特別回収部(トッカイ)には銀行からの出向組の塚野智彦や、元住専社員の葉山、多村玲、岩永寿志などが集まっていた。住管機構は経営破綻によって職を失った元住専社員の受け皿という側面もあった。彼らが対峙するのは、莫大な融資を受けておきながら資産を隠して貸した金は返さないと決め込んでいる悪質債務者たち――暴力団、不動産王、バブル景気の中で暗躍した怪商たち。バブルという狂乱の責任を誰も取らないまま住専の――バブルの後始末に奔走する住管機構。政治家や大蔵省、銀行といった厚顔無恥な面々の思惑に振り回されながら、トッカイは法を駆使し、警察や預保険機構といった外部の協力を受けながら、悪質債務者の隠し財産を回収するために奔走する。
【感想】
実話をベースにした本格的な社会派ドラマ。管理人はあのバブルという時代をほとんど知らない世代である。親も「時代の恩恵なんて全く受けなかった」だの「テレビの向こう側の話だった」だのと言っていて、自分が住んでいるような小規模な地方都市の住民からしてみれば、どこの世界の話? という出来事だった――かもしれない。しかし、その傷跡は大きく、バブル崩壊は'90年以降の日本の景気衰退の端緒とされ、金融機関の破綻や大規模な統廃合を余儀なくされ、銀行などに莫大な公的資金が投入され、省の中の省と言われていた大蔵省は金融機関への監督権限を失うことになった。
見た感じ堅苦しい印象だったが骨太の社会派ドラマ。住専の不良債権をすべて回収するという目的はありながらも、旧住専組と銀行出身者の間での意識のすれ違いなどがある。それが悪質債権者たちから債権を回収するという目的のために団結していくのは見ごたえがある。実在の人物をモデルにしていると思しき人物が数多く登場しており、狂った価値観が横行していた時代を感じられる作品になっている。