Winny(2013年)
DATE
日本
監督 : 松本優作
<主なキャスト>
金子勇 : 東出昌大
壇俊光 : 三浦貴大
北村文也 : 渡辺いっけい
金子勇の姉 : 吉田羊
秋田真志 : 吹越満
仙波敏郎 : 吉岡秀隆
……etc
【作品解説】
2023年3月劇場公開。2004年5月、当時社会問題となっていたファイル共有ソフト「Winny」の開発者を京都府警が逮捕した。技術が悪用された時、その技術を生み出した者も責任を負わなければならないのか? ソフトウェア開発の未来に大きな問いを残した事件を巡り、Winny開発者の金子勇と弁護士・壇俊光が無罪を勝ち取るまでの7年の戦いを描く社会派ドラマ。
VIDEO
【京都府警がファイル共有ソフトWinnyの開発者を逮捕(2004年)】
2000年代に入ったころ、Peer to Peer(ピアツーピア:P2P)のファイル共有ソフトを使った著作権侵害が世界的に問題視されていた。P2Pとはサーバーを経由せずに、PCやスマホなどのように端末同士で直接ファイルのやり取りを行う通信方式のこと。2002年、当時、東京大学の大学院で特任助手を務めていたプログラマーの金子勇氏によって開発されたWindows向けのファイル共有ソフトWinnyが登場した。
Winny上では、製作者の意図から外れ、映画や音楽、ゲームなどの商業コンテンツが氾濫し、これらの著作物を目的にした利用者が急増することになった。Winnyによって数千億ともいわれる著作権侵害が発生したとも言われている。さらに、わいせつ画像や児童ポルノの流通や、コンピューターウィルスの媒介、ユーザーのPC内の情報流出といった様々な社会問題を引き起こした。
一度漏洩したファイルは、完全に消去するのは困難になる。その社会的な影響や、経済損失や損害は大きく、警察の捜査の対象となった。Winnyは摘発不可能と言われるほど匿名性が高かったが、警察は技術者の協力を得ながら、著作物を違法に流出させている発端となった犯人のIPアドレスをたどる方法を突き止めた。2003年11月に京都府警ハイテク犯罪対策課は著作権法違反で2人を逮捕した。さらに、京都府警は2004年5月にソフトウェア開発・配布者の金子勇を、著作権法幇助の共犯として逮捕した。
ソフト開発者が逮捕されてもWinnyを介した情報流出は止まらなかった。その中には警察や自衛隊などの公的機関の情報や、企業や自治体、病院などの内部情報、個人の既往歴などのセンシティブな情報や写真などのプライベートな個人情報も含まれていた。2006年にはWinny対策のソリューションが次々と発表されたり、2月に当時の安倍晋三官房長官がWinnyを使わないように呼び掛けるなど、危機感があらわにされた。それも情報流出はやまず、後の著作権法改正やWinnyユーザーに警告メールがし応付されるようになるなど、違法行為への対応が次々とられた。
金子氏は2004年5月に京都地裁に起訴された。先に逮捕された著作権侵害の犯人への幇助の罪が争われたもので、検察の主張に対し、金子氏側は全面的に否認し、検察側と弁護側が全面的に争うこととなった、2006年9月に京都地裁は著作権法違反の幇助を認め、京都地検の懲役1年の求刑に対して罰金150万円の有罪判決を言い渡した。検察、弁護側ともに判決を不服とし大阪高裁に控訴した。
2009年10月8日、大阪高裁は、「Winnyが専ら著作権侵害に使われるように提供したとは認められない」として一審の京都地裁判決を破棄し無罪を言い渡した。検察はこの判決を不服として最高裁に上告するが、2011年12月に棄却され、無罪が確定した。ソフトウェアを悪用した人間ばかりでなく、それを制作した人間にも刑事罰の対象として逮捕・起訴にいたったことについては、技術者を委縮させることになり、P2P技術の発展の阻害になったと批判する声も根強い。2013年7月、金子勇は急性心筋梗塞によって43歳で他界した。
【ストーリー】
2002年ネット掲示板にファイル共有ソフト「Winny」が公開された。利用は無料でユーザー同士で直接データのやり取りができるこのソフトは、爆発的に利用者を増やしていった、その裏で違法データのやり取りが横行するようになり、著作権保護の観点から規制するべきとの声も上がっていた。さらにウイルス感染による機密情報の漏洩事件も相次ぎ社会問題化していた。警察も捜査に乗り出し、利用者が逮捕される事態にも発展していた。警察の捜査の手は、開発者の金子勇にも伸びていた。
金子は取り調べの中で、自分の不利になり供述調書に、捜査に協力するつもりでサインしていた。そして金子は京都府警に逮捕される。弁護を引き受けることになったのはサイバー犯罪に詳しい弁護士・檀俊光だった。海外でも「Winny」のようなソフトウェアによる書作権侵害などの事例はあるが、開発者が逮捕された例はない。壇は同僚に、「もし包丁で人を殺した時、包丁を作った人間も罪に問われるべきか」という例えを同僚にする。
弁護団が結成され、ネット掲示板の有志からも支援金が集まっていた。しかし、メディアは金子を批判的に報じ、世論の大勢は敵に回り、Winnyや開発者、弁護団にとって逆風となる。同じころ、愛媛県警の一人の警察官が、常態化している領収書偽造の裏金作りを告発するために行動を起こそうとしていた。金子の著作権違反幇助の罪を問う裁判が始まる。保釈された金子と壇は技術者と弁護士という立場は違えど、ソフトウェア開発の未来に強い造形を持つ者同士、気が合った。自身の興味のあることについて語る金子は、子供のように無邪気に他のことが目に入らないかのように熱く語るのだった。
裁判での争点は金子が「Winny」を開発した意図だった。検察は、金子が「著作権違反を蔓延させる目的」で作ったと主張する。弁護側は、逮捕・拘留は不当であるという主張を、証人として出廷した京都府警の警察官を上手く誘導して、警察が金子に書かせた誓約書の内容がに投げかける。裁判が進み、金子は最終陳述で「Winnyは技術者としての自己表現」であると語る。金子にとってのプログラミングは、作ること自体が目的であり手段だったのである。
【感想】
Winny事件を巡る7年に及ぶ闘いの記録。当時大きな社会問題となったWinnyを巡り噴出した様々な問題や、開発者の逮捕という技術者たちを震撼させたWinny事件の顛末を上手く2時間にまとめつつ、良質な社会派サスペンスに仕上げている。役作りのために約18kgもの増量をして挑んだという東出昌大の怪演が見どころ。新たな技術への純粋な好奇心を押さえられないいい意味での子供っぽさと、社会的な常識が欠如した悪い意味での子供っぽさが同居した、優秀さと危うさの二面性を持った不安定な技術者を見事に演じている。
当時話題になった愛媛県警の裏金問題が並行して描かれるのがこの映画の特色の一つ。金子や壇が守ろうとしたものと、裏金を告発しようとした警察官が守ろうとしたもの。それは若い技術者の、若い警察官の、未来だった。新しい技術が生み出された時に、違法な行為に使われたり様々な問題が起こった時に、それを作った人間を逮捕して世の中から技術そのものを葬ってしまえばそれでいいのか? 組織の腐敗を勇気を出して告発しようとした者を黙らせたり追いやったりしてなかったことにすればそれでいいのか? 真摯な問いを突き付けられる作品である。