あなたは FC2無料カウンターFC2無料カウンターFC2無料カウンターFC2無料カウンターFC2無料カウンターFC2無料カウンターFC2無料カウンター 人目の訪問者です。


アメリカン・クライム(2007年)





DATE

An American Crime/アメリカ
監督 : トミー・オヘイヴァー

<主なキャスト>

シルヴィア・ライケンス : エレン・ペイジ
ジェニー・ライケンス : ヘイリー・マクファーランド
レスター・ライケンス : ニック・サーシー
ベティ・ライケンス : ロミー・ローズモント
ガートルード・バニシェフスキー : キャサリン・キーナー
ポーラ・バニシェフスキー : アリ・グレイナー
                     ……etc

目次
『アメリカン・クライム(2007年)』の作品解説
キーワード『シルヴィア・ライケンス虐待殺人事件』
『アメリカン・クライム(2007年)』のストーリー
『アメリカン・クライム(2007年)』の感想


【作品解説】

 日本では劇場未公開。1965年にアメリカで実際に起きた児童虐待死事件を生々しく映画いた作品。ホラーのような恐怖ではない。人間の生々しい悪意とそれによって死に至らしめられた少女の現実に恐ろしさを感じる。同じ年に、同じ事件を題材にしたアメリカ映画『隣の家の少女』も公開されている。


【シルヴィア・ライケンス虐待殺人事件】

 1965年10月26日。アメリカ合衆国インディアナ州インディアナポリスの警察に、少年の声で通報があった。告げられた住所に向かった警官は薄暗い家の中でマットレスに横たわる少女の遺体を発見した。被害者はシルヴィア・ライケンス。16歳の少女だった。哀れなほどに痩せ細り、全身にタバコの火を押し当てられた跡があり、腹には「私は淫売」と縫い付けられていたという。

 この家の主人であるガートルード・バニシェフスキーは、シルヴィアの友人だったポーラの母親であり、シルヴィアと小児麻痺の妹、ジェニーを預かっていた。シルヴィアとジェニーの両親は移動遊園地の従業員だったため長期間家を離れることが多く、シルヴィアとジェニーはたびたび祖母のもとや他所の家に預けられていた。ところが、この祖母が1965年7月に万引きで逮捕されてしまう。途方に暮れていたところにガートルードが週20ドルで預かることを申し出たのだった。しかし、ガートルードは極貧にあえいでおり、金目当てであった。

 金が支払われている間は問題なかったが、2週目に何かの手違いで小切手が1日遅れたことをきっかけに虐待が始まる。特に、美少女であったが故かシルヴィアに対する虐待は特に凄まじいものだった。言いがかりをつけては殴打され、ひどい侮辱を受け続けた。この虐待にはガートルードの子供や近所の若者たちも関わるようになり、内容も性的なものを含むようになっていった。シルヴィアは彼らの前で強制的に下着を脱がされ、ガートルードは性器を繰り返し蹴ったり膣の中にボトルを突っ込んだりしたという。虐待はどんどんエスカレートしていく。煙草の火を押し付けるのは日常的なものとなり、シルヴィアを学校に行かさなくなったガートルードは、膣にボトルを詰め込んだ影響で失禁するようになったシルヴィアを地下室に閉じ込め、熱湯の風呂に入れて火傷の跡に塩を塗り込んだり、シルヴィアに自身の排せつ物を食べさせたりした。

 10月26日。シルヴィアが死亡しているのが確認された。警察が到着すると、ガートルードは、警察にシルヴィアが問題児であったと印象付けるためにあらかじめシルヴィアに強要して書かせておいたシルヴィアが実際には行っていない様々な悪事の告白を書き連ねた手紙を提出した。また、同じように強要して書かせた傷や火傷は売春しようとした少年グループにつけられたものだという趣旨の手紙も提出した。しかし、このような偽造工作は、ジェニーが警官に助けを求めたことで無駄に終わった。警察の捜査の末、ガートルード・バニシェフスキーと2人の子供、その遊び友達の2人の少年が殺人の容疑で逮捕された。公判で検察官はこの事件を「インディアナの犯罪史上で最も恐ろしい犯罪」と評したという。

 ガートルードは精神疾患を理由に無罪を主張し、未成年の被告たちはガートルードの支配下にあったと主張した。ガートルードには一審で仮釈放なしの終身刑が言い渡されたが、控訴審で懲役18年の有期刑となった。刑務所内でのガートルードは模範囚であったという。1985年に仮釈放となるニュースが流れると、インディアナ州の社会に大きな衝撃を与え、仮釈放に反対する署名が4500件分も集まったというが、仮釈放は認められた。


【ストーリー】

 物語は裁判の場面から。子供を預けていた先のガートルードの虐待によって殺害された父親が証言台に立っている。移動のサーカスを営んでいた一家は、遠く遠征しなければならず2人の娘、シルヴィアとジェニーをどこかに預けなければと考えていた。それに名乗り出たのがシングルマザーのガートルードだった。2人はガートルードに週20ドルの約束で預けられるが、やがて、謝礼のお金が遅延したことやガートルードの娘のポーラとシルヴィアの不仲などが重なり、ガートルードはシルヴィアに執拗な虐待を加えるようになる。

 虐待は、ガートルードの子供たちや近所の悪ガキ達を巻き込んでいく。シルヴィアのことを気に掛ける少年もいるが、虐待は凄惨さを増していく。決死の思いで家族に連絡を入れたジェミーだったが、ガートルードたちに連れ戻される。シルヴィアへの虐待はどんどんエスカレートしていく。裁判の場に引きずり出された“加害者”たちは、積極的に虐待に加担したにもかかわらず、検事に「なぜそんなことをしたのか」と問われ、当事者意識の欠片もなく「分かりません」と平然と答える。ガートルードも、加えてしまった苛烈な虐待を悔いつつも、気持ちが昂ると虐待を繰り返してしまう悪循環に陥っていた。娘のポーラは、シルヴィアへの虐待や家族が崩壊していく様に心を痛め、クラスメイトの男子とともにシルヴィアを脱出させようとする。そして、それは成功したかに思えたが――。


【感想】


 内容的に面白かったなどとは言えないし、救いと呼べるものもなく観た後で憂鬱になってしまう作品なので、あんまりおススメもできない。この映画で描かれていることが、現実で起きた事件と比べてずっとヌルかったことを知ってしまうとさらに憂鬱になった。現実ではこの家で起こっている虐待を知っている者は大勢いた。ガートルードの家に出入りしてシルヴィアに虐待していた悪ガキたちだけではない。隣人は虐待の事実に気づいていながら当局への通報を行わなかったという。シルヴィアの実姉もジェニーから助けを求められたがこれを軽視した。それでもガートルードの態度に疑問を覚えてソーシャルワーカーに保護を求めたが、ソーシャルワーカーはガートルードに言いくるめられて調査は不要という報告書を出したという。然るべき人間や機関が、然るべき行動をとらないから、最悪の出来事へと至ってしまう例があまりに多いのは悲しいことだが、これからも何度だって起こることなのだろう。誰だって所詮は他人事なんだから。

 だからこそ他人ではない守らなければならない人間が守らなければならない。それなのに大切な存在をこうも簡単に、見ず知らずの人間に金で預けてしまえるのか。国民性といってしまえばそれまでかもしれないが……。全体的に見ごたえのある映画だったが、ガートルードに簡単に謝罪の言葉を引き出させていることが大きな不満だった。虐待の最中でも、収監された後でも、ガートルードに謝罪の言葉を口にさせている。これでは、この事件が貧困のせい、ガートルードの精神的な病気のせい、で終わってしまわないかと不安に思う。悲劇をもたらすのは常に弱い人間だと言ったのは誰だっただろう。弱いから、もっと弱い立場の人間にその弱さをぶつけるのだろうか。それはどうしようもないことなのだろうか?