アポロ13(1995年)
DATE
APOLLO 13/アメリカ
監督 : ロン・ハワード
原作 : ジム・ラヴェル『
アポロ13(河合裕(翻訳)/新潮文庫)』
<主なキャスト>
ジム・ラヴェル : トム・ハンクス
ジャック・スワイガート : ケヴィン・ベーコン
ケン・マッティングリー : ゲイリー・シニーズ
フレッド・ヘイズ : ビル・パクストン
ジーン・クランツ : エド・ハリス
マリリン・ラヴェル : キャスリーン・クインラン
……etc
【作品解説】
日本では1995年7月に劇場公開された。1970年4月に発生したアポロ13号事故に基づいており、船長のジム・ラヴェルが著した『Lost Moon』を原作にしている。第68回アカデミー賞では作品賞をはじめ9部門にノミネートされ、最優秀編集賞と最優秀録音賞を獲得した。
【アポロ13号事故(1970年)】
1961年4月12日、ソビエト連邦が世界で初めて有人宇宙飛行に成功する。アメリカが宇宙に人を送り出したのはその23日後のことだった。宇宙開発競争でソ連に後れを取ることになった形になったアメリカだったが、アメリカも有人飛行に成功したことで当時のジョン・F・ケネディ大統領は月への人類到達を積極的に推進するようになる。
ケネディ大統領は、有人宇宙飛行計画であるジェミニ計画が実行に移される前に凶弾に倒れたが、その意志は継続され、ジェミニ計画が成功裏に終わり、月への人類到達を目指したアポロ計画がスタートした。そんな矢先の1967年1月。アポロ1号の訓練中の火災事故によって3名の宇宙飛行士が殉職する。ソビエトでも、ソユーズ1号が宇宙からの帰還に失敗し、宇宙飛行士が死亡した。しかし、人類の宇宙開発競争の意欲は衰えず、1969年7月。アポロ11号が月面に着陸に成功した、
1970年4月14日。アポロ13号は11日に3度目の月面着陸を目指して飛び立ち、地球から321,860km離れた宇宙空間にいた。しかし月を目前に酸素タンクが爆発する事故が起きる。アポロ13号は月面着陸の計画を断念。月を回ってそのまま地球へ戻る自由帰還軌道に乗って地球に向かうが、電力不足、二酸化炭素濃度の上昇、低温度などの様々な問題に直面する。宇宙空間での大事故という未曽有の事態に直面した3名の宇宙飛行士が無事に帰還できるのか、世界は固唾を飲んで見守った。さまざまな困難を乗り越え17日、アポロ13号の搭乗員は地球に生還した。月面着陸はできなかったものの、この人類が初めて経験する状況を乗り切ったNASAの技術力と組織力は改めて世界に知らしめられ、「成功した失敗」「栄光なる失敗」などと呼ばれたという。
【ストーリー】
ベテラン宇宙飛行士のジム・ラヴェルは船長としてアポロ13号への搭乗が予定されることになった。ジムの妻のマリリンは13という数字に不吉なものを感じるが、ジムは気にしていなかった。アポロ13号に搭乗するフレッド、ケンとともに訓練を重ねていたが、打ち上げの2日前になって予備チームに風疹の患者が出る。ケンが抗体を持っていなかったため、感染・発症の可能性があり、NASAから搭乗権を奪われてしまう。落胆するケンに対して、代役として月に行くことになった予備チームのジャックは歓喜する。
半年の間、ともに訓練して気心が知れたケンが離れることに不安を覚えるジム。突貫の訓練を終え、1970年4月11日13時13分、アポロ13号は宇宙へと飛び立つ。5基あるエンジンのうち1基が停止するトラブルはありつつも、予定通りの軌道に乗ったアポロ13号は順調に月へと向かっていた。宇宙からの中継などの仕事も精力的にこなすジムたち搭乗員だったが、その中継がどこのテレビ局でも放送されていないことなど知る由もなかった。すでに3度目となる月着陸に、国民はすでに飽きてしまっており、大した注目はされていなかったのである。
月に到着目前の4月13日、ヒューストンから酸素タンクの撹拌の指令が出される。ジャックがスイッチを入れた瞬間、爆発音とともに衝撃が起こった。警告ランプが次々点り、酸素残量がみるみる減っていく。ジムは窓から酸素の流出を確認した。ヒューストンからの指令は「燃料電池の反応バルブを閉じるように」というものだった。それは、月着陸が断念されることを意味していた。しかし、酸素の流出は止まらず、機能の大半を失った司令船をシャットダウンして月着陸船で地球に向かうことになる。NASAでは主席管制官のジーン・クランツが中心になってあらゆるスタッフを集めて対策を練ることになる。地球への帰還には月を周回して地球へと向かう進路が選択された。
月を回りながら、月着陸ができなかった無念を口にするフレッドやジャックに対し、ジムは早く家に帰りたいと言う。電源が全て落ちて船内の温度は1℃程度という状況の中で、地球へ向かう過程には次々と問題が降りかかる。搭乗員たちが吐き出す二酸化炭素の濾過が追い付かず、濃度が上昇した。船内のありあわせの材料を使って「アダプタ」をつくり着陸船と司令船のフィルタをつなぐことで何とか事なきを得る。生命の危機を何度も克服しながら地球へたどり着いたアポロ13号だったが、なかなか大気圏への再突入手順の指示が来ない。地上では、使えるわずかな電力の中で大気圏への再突入を成功させるためにケンがシミュレータの中で何度も手順のやり直しを行っていた。
【感想】
アメリカが強く、科学の進歩に輝かしい未来しか見えなかった時代――。前代未聞の事故に対して、再び生きて地上に還るために刻一刻と変化していく過酷な状況とシステムが再起度しないのではないかという恐怖の中、最善を尽くす3人の搭乗員。彼らを無事に地上に帰すためにあらゆる知識を総動員するNASAのスタッフたち。地球で彼らの帰還を信じながらも、時に無節操なマスコミに怒りを覚え、孤独を感じた時に思わず涙してしまう家族たち。これだけ書くとチープな映画の印象を受けるが、これが実際に起きた事故をもとにしているのに驚き。
3名の搭乗者をはじめ、関わったすべての人間たちの諦めない姿に感動を覚える。あまり映画的な脚色を加えなかったそうだが、事故自体が劇的なことと、宇宙や宇宙船など再現度が凄く(ホンモノを見たことはないけれど)、臨場感ある世界に否応なく引き込まれる。もっとも映画が公開された時、船長だったジム・ラヴェル氏は、「劇中で口論している場面があったが実際にはそんなことはなかった。口論などしている余裕はなかった」ということを語ったそうだ。映画が人間の想像以上のものを創造できないとするならば、そこにはきっと、人間には想像もつかない世界が広がっていたのだろう。