バーニング・オーシャン(2016年)
DATE
Deepwater Horizon/アメリカ
監督 :ピーター・バーグ
<主なキャスト>
マイク・ウィリアムズ : マーク・ウォールバーグ
ジミー・ハレル : カート・ラッセル
ドナルド・ヴィドリン : ジョン・マルコヴィッチ
アンドレア・フレイタス : ジーナ・ロドリゲス
ケイレブ・ハロウェイ : ディラン・オブライエン
フェリシア・ウィリアムズ : ケイト・ハドソン
……etc
【作品解説】
日本では2017年4月に劇場公開された。2010年4月にメキシコ湾の海底油田からの採掘施設で発生した原油流出事故が題材になっている。この映画の中では採掘の責任を負うはずの多国籍企業の幹部の無責任な言動と、未曽有の大事故を前に、作業員たちが奮闘し、命がけの脱出劇を描いている。
【メキシコ湾原油流出事故(2010年)】
2010年4月20日。米国ルイジアナ州メキシコ湾沖にある、英国の多国籍企業BP社の石油掘削使節「ディープウォーター・ホライズン」で事故が発生する。「ディープウォーター・ホライズン」は同湾の沖合80km、水深1522mの海上で海底油田掘削作業中、掘削中の海底油田から原油が掘削パイプの先端から猛烈な勢いで噴き出す「暴墳」と呼ばれる現象が発生、引火爆発が発生した。海底へ伸びる5500mの掘削パイプが折れて大量の原油がメキシコ湾へ流出した。「ディープウォーター・ホライズン」は炎上し続け、22日に沈没した。「ディープウォーター・ホライズン」では126名の作業員が従事しており、この事故によって、11人が行方不明となり、17人が負傷した。
流出して海上に広がった原油は29日にはルイジアナ州の沿岸にも到達したという証言もある。5月2日にオバマ大統領はヘリコプターで視察し、沿岸警備隊の司令官などの説明を受け、その悲惨な状況に「史上最悪の被害が生じる可能性がある」と述べた。BP社は原油の流出量を一日約1000バレル程度と推定していたが、損傷は想定以上にひどく、原油の流出量は当初推定の5倍以上に修正された。後に行われた米国政府の科学者チームによる分析では一日6万バレルが流出したとされている。原油の流出を食い止めるために作業が続けられたが、対応は困難を極めた。7月中旬ごろに何とか封印に成功し、9月19日に油井の封鎖作業は完了した。
その間に流出した原油は490万バレルにも上るとされ、湾岸戦争で流出した原油量(約600万バレル)にも匹敵するとも言われている。流出した原油は、原油回収船やオイルフェンスを駆使しての回収と、原油中和剤による中和が行われた。しかし、桁外れの原油流出量に、ミシシッピー河河口の複雑な潮流によって広域に広がり、影響が大西洋にも及ぶことが懸念されている。環境への影響も、漁業や観光業など経済的な影響も、長期的かつ莫大な損失となることが懸念されている。
【ストーリー】
2010年4月。石油採掘会社「トランスオーシャン社」の技術者マイク・ウィリアムズは、メキシコ湾にあるBP社の石油採掘施設「ディープウォーター・ホライゾン」に向かうことになり、しばらく会えなくなる妻子との朝食を楽しんでいた。その時にマイクは、娘に炭酸飲料の缶と蜂蜜を使って海底油田掘削の原理を説明してみせるが、勢いよく中身が噴出しテーブルや部屋を汚してしまう。
すでにこれと同じことが「ディープウォーター・ホライゾン」で起き始めていることなど露知らず、ヘリで現地へと飛んだマイクや主任のジミー・ハレル、施設操縦士のアンドレアたちトランスオーシャン社の面々。現地に到着すると、掘削に必要な安全テストが行われていなかったり、トラブルや故障が多いことに疑念を抱く。「ディープウォーター・ホライゾン」は予定より43日も工期が遅れており、雇い主であるBP社の管理職ドナルド・ヴィドリンは工期の遅れをとりもどし利益を優先するために安全面を無視した発言や指示を繰り返す。
ジミーの抗議により、負荷テストを行い異常がなかったら掘削が行われることが決まる。負荷テストの結果はドリル・パイプに異常な数値と警報が発生し、抑圧パイプの圧力は上がらなかった。本来、この二本のパイプの圧力は同じでなければならない。しかし、ヴィドリンはドリル・パイプのセンサーの不具合を主張し、ジミーもそれ以上抵抗することもできず、不安を覚えながらも掘削作業を指示するしかなかった。しかし、掘削汚泥の除去作業が始まるとドリル・パイプの圧力はどんどん上がっていった。そして、その瞬間が訪れる。勢いよく汚泥が噴出し、設備や計器を破壊した。そのうえ、気化した原油や天然ガスに引火。大爆発が引き起こされる。連鎖的に爆発が引き起こされ、ジミーを含めて負傷者も続出。もはや「ディープウォーター・ホライゾン」の崩壊は時間の問題だった。
しかし、こんな状況であっても、トランスオーシャン社の人間には緊急電話を掛ける権限も設備の緊急停止を作動させる権限も与えられていなかった。近くの作業船から沿岸警備隊に緊急連絡がなされるが、救助が駆けつけるのに30分以上がかかる。崩れ行く「ディープウォーター・ホライゾン」の中では、作業員たちの脱出とそのための時間を稼ぐための、懸命な戦いが続いていた。
【感想】
史上最大の“人災”となった2010年のメキシコ湾の原油流出事故。安全軽視の利益重視の経営陣と、交代制ゆえに次の担当に変わるまで何もなければそれでいいという事なかれ主義の現場。そこに入ってくる現場の安全こそが第一とする現場責任者。なぜ事故が起きたのかという原因をあぶりだしながら、崩壊の時へと突き進んでいくディープウォーター・ホライゾンの姿を丁寧に描いている。後半の爆発・炎上していくディープウォーター・ホライゾンの映像は臨場感あふれると同時にパニック映画のような派手なものになっており、一見の価値がある。
パニック映画のような娯楽作品なのか社会派ドキュメンタリーなのか、どっちが撮りたかったのだろうと、見終わった後に中途半端さを感じた作品だった。この映画が製作されたのは、事故からまだ6年ほどしか経っていない時期である。事故に関わってしまった人や企業に対する無用の中傷が起こることを懸念したのだろうか……? 作業員が火だるまになって海に落ちていく場面などもあったものの、一人くらい主要登場人物の中に死亡した人間を入れるべきだったのではないだろうか。せっかく、亡くなった人たちがエンディングロールで流れても、気の毒だとは思えても、どうも感情移入できなかった。