ユナイテッド93(2006年)
DATE
UNITED 93/アメリカ
監督 : ポール・グリーングラス
<主なキャスト>
ジェイソン・M・ダール機長 : J・J・ジョンソン
リロイ・ホーマー副機長 : ゲイリー・コモック
ロレイン・G・ベイ : ナンシー・マクダニル
サンドラ・ブラッドショー : トリッシュ・ゲイツ
ワンダ・アニタ・グリーン : スターラ・ペンフォード
シーシー・ライルズ : オパル・アラディン
デボラ・ウェルシュ : ポリー・アダムス
……etc
【作品解説】
日本では2006年8月に公開されたアメリカ映画。2001年9月のアメリカ同時多発テロでハイジャックされた4機の旅客機のうち、唯一目標に到達することなくペンシルバニア州に墜落したユナイテッド航空93便。ユナイテッド航空93便の中では乗客たちが機を取り戻すために果敢に戦ったと考えられている。この映画を撮影するために、ほとんどすべての遺族から了解を取り付けたという。その機内でのやり取りから墜落に至るまでを入念な取材を行い、パイロットや客室乗務員の役の一部には経験者を起用したり、事件当時の音声を使用するなどして、リアリティにこだわった臨場感あふれる映像と演出であの日を再現している。
【9.11アメリカ同時多発テロ(2001年)】
2001年9月11日の朝、ボストン発ロサンゼルス行きアメリカン航空11便、ボストン発ロサンゼルス行きユナイテッド航空175便、ワシントンD.C.発ロサンゼルス行きアメリカン航空77便、ニューアーク発サンフランシスコ行きユナイテッド航空93便の4機がハイジャックされた。
午前8時45分頃。アメリカン航空11便がワールドトレードセンター北棟の93階から99階あたりに衝突した。衝突により漏れ出したジェット燃料に引火、爆発が始まった。さらに、エレベーターシャフトを通じて燃料が落下し、下層階でも爆発が起こった。この時は、航空機の衝突は事故であると見られており、すぐさまニューヨーク市消防局やニューヨーク市警察が救助のために現場に駆け付けていた。午前9時過ぎ、南棟の77階から85階のあたりにユナイテッド航空175便が衝突。爆発・炎上が始まった。北棟への航空機衝突を受けて集まっていた報道陣や一般人のカメラによって南棟に航空機が突入していく光景は収められ、その衝撃的な映像は世界中に配信されることになった。
午前9時40分ごろ。アメリカン航空77便がアメリカ国防総省本庁舎――通称ペンタゴンに激突した。監視カメラの映像によればアメリカン航空77便の機体は水平に地面に滑走し、改装工事中のペンタゴン1階に激突した。77便の乗員乗客とペンタゴンのスタッフなど189人が死亡、106人が負傷した。高速で建物に衝突し、爆発・炎上した機体の残骸は原形をとどめないほど破損していた。
30分遅れてニューアーク空港を発ったユナイテッド航空93便には乗員7人、乗客37名(うち4人が犯人とみられる)が乗っていた。ハイジャックされた機内ではワールドトレードセンターに航空機が突入したことを携帯電話などでの外部との通信で知り、ユナイテッド航空93便もどこかに自爆テロを仕掛けようとしていると考えた乗客たちが機の奪還のために戦ったと考えられている。午前10時5分ごろ、ユナイテッド航空93便はペンシルベニア州ピッツバーグ郊外に墜落。墜落時の速度は490ノット――時速900q以上の速度で地上に衝突したと考えられており、機体の残骸はほとんど原形をとどめていなかった。ユナイテッド航空93便をハイジャックした犯人はアメリカ合衆国議会議事堂か大統領官邸(ホワイトハウス)に自爆テロを敢行しようとしていたと考えられているが、目的を達することはできなかった。
アメリカン航空11便とユナイテッド航空175便が突入したワールドトレードセンターは、航空機衝突によるダメージ、ジェット燃料が燃え続けたことによって構造部材の強度が著しく低下したことにより、約1時間後に南棟が、約1時間40分後に北棟が、避難中の人たちや、救助に向かった消防士や警察官などを大勢巻き込んで崩壊した。その崩壊に巻き込まれ、崩壊したり再生不能な甚大なダメージを負った建物も多かった。救出活動や瓦礫の撤去などに、約8ヶ月の時間を要したという。
一連のテロによって日本人24人を含む2977人が死亡、25000人以上が負傷したとされる。インフラや物的な損失額は天文学的数値になり、凄惨な現場に居合わせ心的外傷ストレス症候群(PTSD)を発症したり、崩壊によって発生した大量の粉じんによって長期に及ぶ健康被害に悩まされる人も多く出た。
捜査の結果、一連のテロ事件はイスラム教原理主義者の反米過激派国際テロ組織のアルカイダによるものであると結論付けられた。実行犯は合計19人。自爆テロによって全員死亡した。首謀者はアルカイダの指導者ウサマ・ビン・ラディンであるとされる。アルカイダが潜伏しているアフガニスタンのタリバン政権に彼らの引き渡しを求めたがタリバンはアルカイダが首謀した証拠を見せるように要求し、アメリカへの引き渡しを拒否した。アメリカ国民のテロへの怒りは、当時のジョージ・ブッシュ大領領の支持率を91%にまで引き上げたという。アメリカは有志連合とともに10月7日、アフガニスタンへの侵攻を開始。2ヶ月ほどでタリバン政権を崩壊させ、傀儡政権を樹立するも、紛争は泥沼化した。ブッシュ大統領はテロとの戦いを標榜し、反テロと大量破壊兵器の不拡散を掲げて2003年にはイラク戦争を始める。2004年10月、ウサマ・ビン・ラディンは中東の衛星テレビ,アルジャジーラが放映したビデオ声明の中で9.11アメリカ同時多発テロの実行を実行犯に指示したことを認めた。
【ストーリー】
2001年9月11日朝――。ニューアーク国際空港ではユナイテッド航空93便が飛び立とうとしていた。機長たちはいつも通りのフライトがなされると信じて疑っていなかった・乗客の中に国際ロ集団アルカイダのテロリストが紛れていることなど知る由もなく。
フライトが始まると不可解な動きをする旅客機が現れ始める。応答を拒否し、高度を下げる旅客機が次々現れ、航空管制は大混乱に陥る。軍も航空局も、その情報を受けて対応しようとするも、アメリカ上空には数千の航空機が飛び交っており、それに対処するには装備も人員もまるで足りない。情報が錯綜する中、世界貿易センタービルに、立て続けに旅客機が追突する。その上、ハイジャックされた疑いのある航空機はまだまだ存在していた。国防総省(ペンタゴン)へハイジャックされた航空機が突入し、連邦航空局は全米の空域を封鎖し、全ての航空機を着陸させるように命じる。
ユナイテッド航空93便の中では朝食が配られ、穏やかな時間が流れていた。コックピットには世界貿易センタービルに旅客機が突入したという注意を呼び掛ける情報が入っていたが、機長たちはただの事故だと意に介していなかった。しかし、客室ではキャビンアテンダントを人質にとったテロリストが乗客を刃物で刺し、コックピットへ突入する。機長と副機長を殺害し、航空機を乗っ取ったテロリストは、操縦桿を握り進路をワシントンD.Cに向ける。
後方に集められた乗客たちは機内電話などで外部との連絡を取り合う内に世界貿易センタービルに旅客機が突入したことを知り、テロリストの目的が自爆テロであることに気付く。もはや、93便が地上に降りることはない。幸い、乗客の中に航空機の元パイロットや管制官がいる。乗客たちは戦って93便を取り戻すしかないと決断した。機内電話や携帯電話で愛する人たちに別れを告げ、乗客たちは立ち上がる。
【感想】
93便の中で何があったのか。混乱する地上の航空関係者や軍関係者を描きつつ、上空から機内の電話や携帯電話などを使い地上に残してきた大切な人たちにわずかなメッセージを残して命を落とした乗客や乗務員の姿を、わずかな情報を基に、ドキュメンタリー・タッチで描いた作品。ドキュメンタリーのようなカメラワークが観客を、あの日、あの時のユナイテッド航空93便の機内にともに乗り込んだような感覚を与えてくれる。
出来得る限り、現在明らかになっている“事実”を描こうとしている。もちろん、憶測によるところも多いし見せるための技術も駆使している。この作品は決してドキュメンタリー映画でも再現ドラマでもない。しかし、娯楽作品として以上に、そのリアルさや臨場感に目を離すことができない作品になっている。結末を知ってはいても、彼らの生きるために戦う姿に思わず助かってほしいと祈ってしまった。