国家が破産する日(2018年)
DATE
DEFAULT/韓国
監督 :チェ・グクヒ
<主なキャスト>
ハン・シヒョン : キム・ヘス
ユン・ジョンハク : ユ・アイン
ガプス : ホ・ジュノ
パク・デヨン : チョ・ウジン
IMF専務理事 : ヴァンサン・カッセル
……etc
【作品解説】
1997年の通貨危機によって韓国がIMFの管理下に入るまでの出来事を、史実をベースに映画的な想像力と脚色を加えて描いた経済サスペンス。ストーリーを最終局面に向かって突き進んでいく7日間に集約し、「最悪の事態を回避すべく奮闘する韓国銀行通貨政策チーム長」「国家的な危機をチャンスととらえて博打のような投機に乗り出す若い経営アナリスト」「経済危機の波に飲み込まれ政府からは何も知らされないまま追い詰められてく零細工場の社長」の3者に焦点を当てて描かれている。題材となっているのが韓国を一変させた忘れられない出来事であったためか、公開当時の2018年の状況が1997年当時と似てきているという社会不安からか、映画は大きな注目を集め、公開12日で260万人の観客を動員するなど、反響の大きな映画となった。
【IMFによる韓国救済(1998年)】
1990年代、高度経済成長を遂げていた東南アジアだったが、1997年5月に欧米のヘッジファンドがタイのパーツに大量の空売りを仕掛けたことを引き金にパーツの大暴落が発生した。その結果タイは8月にIMFに資金援助を要請するに至った。この急激な通貨の下落は、東アジア・東南アジアの各国に波及し、各国の経済に大きな悪影響を与え、タイ・インドネシア・韓国はIMFの管理下に置かれることになった。日本にもその影響がおよび1998年の金融危機の遠因になった。影響は他の経済圏にも及び、ロシアやブラジルの経済危機にもつながった。
韓国ではウォンの下落によって中堅財閥が相次いで破綻。ムーディーズなどの格付け会社は韓国の国家信用格付けを下方修正した。それによって韓国からの外資の撤退、株価の暴落、ウォンのさらなる下落が続いた。韓国の外貨準備金はみるみる減っていき、ウォンの買い支えはできず、外国への借金返済もできないという破綻(デフォルト)の危機を迎えた。韓国は1997年11月にIMFへの支援を要請した。IMFは史上最大規模となる210億ドルの融資を決定した他、世界銀行から100億ドル、アジア開発銀行から40億ドルなど、韓国へ総額580億ドルの支援パッケージが組まれた。
1997年の経済危機によってIMFの管理下に置かれ、韓国国民の生活は一変した。金融システムは麻痺し、企業の規模にかかわらず倒産が相次ぎ、失業者が溢れた。一般の国民からしてみればIMFとともに苦境がやってきたように感じたからか韓国では「IMF危機」「IMF事態」などと呼んだりし、IMFを「死神」と称することもあるという。IMFは韓国に対して、外国資本の参入や通商障壁の大幅な緩和を求め、財政再建やそれに向けた金融機関の構造改革、労働市場の改革、企業統治の透明化などを突き付けた。IMFの管理は2001年8月まで続いた。その間に推し進められた様々な構造改革によって韓国産業の国際競争力は大きく上がったが、非正規雇用の増加など雇用環境の不安定化や経済格差の拡大、家庭債務の増大など、現在にも残る問題を生んだとされる。
【ストーリー】
1997年の韓国。経済は急成長を果たし、OECD(経済協力開発機構)へアジアで2番目に加盟するなど、経済大国の仲間入りを果たしたと浮かれていた。好調な経済がこれからも続くと誰もが信じて疑っていなかったが、危機の兆候は微かに、しかし確実に見え始めていた。韓国銀行(韓国の中央銀行)では、通貨政策チーム長のハン・シヒョンが出した報告書が波紋を呼んでいた。シヒョンがつかんだ危機の兆候を上層部は軽視し、その重大性に気付いた時には、すでにのっぴきならない状況になっていた。シヒョンの推計では、韓国に残された時間は7日間。しかし、警告を受けた韓国政府は、この事態を国民には伏せることを決める。金融会社に勤めるユン・ジョンハクは、好調に見える韓国経済に大きな危機が迫っていることを感じ取り、会社を辞めて経営アナリストとして活動を始める。金融会社時代の顧客に声をかけ、金を集めてファンドを設立し、為替と株の暴落を見越した博打のような投機に打って出ようとしたのだ。
零細の食器工場を営むガプスはデパートからの大量の発注を受ける。願ってもない話だったが、支払いが約束手形であることに不安を覚える。現金での支払いを求めるが、約束手形での決済以外ならこの話は流れてしまう、という状況に押し切られ、契約書にサインしてしまう。約束手形での支払いということは、万が一、デパートが倒産したら代金は回収できず、材料業者などへの支払いもできなくなることを意味していた。
危機は着実に進展していた。中堅の財閥が相次いで破綻し、韓国銀行のシヒョンのもとにも次々と事態の悪化を伝える情報が入ってくる。しかし、一刻も早く情報を公表するべきだと訴えるシヒョンに対し、財務局次長のパク・デヨンは、事を公にすることは国民に混乱を与えるだけだと強硬に反対する。この局面を乗り切るにはIMFに頼るよりないという意見が出てくるが、シヒョンはそれに反対する。IMFの管理に置かれるということは、韓国の経済主権が失われることに他ならない。しかし、政府はIMFに支援を求めることを決める。
ガプスの工場はデパートが経営破綻したことで窮地に陥る。資金繰りに奔走するガプスが見たのは、経済危機により崩壊していく韓国の姿だった。IMFとの交渉が始まる。高圧的な態度を崩さず韓国を外国資本に切り売りするかのような条件を次々と突き付けてくるIMF専務理事の前に、韓国政府は全てを飲むことを受け入れようとする。シヒョンはIMFの後ろにいるアメリカの影を感じ取り交渉を打ち切るように求めるのだが……。
【感想】
史実を基にした作品ではあるが、危機の表面化からIMFの管理下に入るまでを7日間に凝縮して緊迫感を出し、立場の違う三者を巧みに登場させながら崩壊に向かって突き進んでいく物語をうまく演出している。一見とっつきにくそうな政治・経済ドラマで難解な経済用語なども多く出てくるのにほとんど躓くことなく、最後まで見られた良質の映画だった。ただ、話の構造を分かりやすかった反面、物語が単純化され、経済危機がなぜ起こったのかという点は深堀りされず、稚拙な反米映画となってしまったような印象も受けた。
史実をベースにしている以上、ヒーローが現れて一発逆転の奇手を放ってハッピーエンドとはならない。IMFの管理が終わった20年後の世界の中で、人が良いことが取り柄だった零細工場の社長は息子に「自分以外の誰も信用するな」と教え、外国人労働者を怒鳴り散らしてこき使う人間へと変貌している姿が印象的である。物語は民間のシンクタンクで働くシヒョンの危機の再来の兆候と、「常にアンテナを張り、あらゆる情報を俯瞰的に見なくてはならない」という国民への警告が語られて終わる。最後の言葉は、バブル崩壊を経験し、失われた30年を経験した日本国民にとって、決して笑っていられる言葉ではないだろう。対岸の火事などと思わず、胸にとどめておくべき警告だと思う。