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武士の献立(2013年)




DATE


日本

監督 : 朝原雄三


<主なキャスト>


舟木春:上戸彩

舟木安信:高良健吾

舟木伝内:西田敏行

今井佐代:成海璃子

今井定之進:柄本佑

お貞の方:夏川結衣

大槻伝蔵:緒形直人

前田土佐守直躬:鹿賀丈史

前田吉徳:猪野学

ナレーション:中村雅俊


       ……etc


目次
『武士の献立(2013年)』の作品解説
キーワード『加賀騒動(享保8年(1723年)〜宝暦4年(1754年))』
『武士の献立(2013年)』のストーリー
『武士の献立(2013年)』の感想


【作品解説】

 2013年12月に劇場公開された加賀百万石を舞台にした時代劇。加賀騒動の前後の加賀藩を舞台に、実在した加賀藩の「御料理人」であった舟木伝内と安信親子を中心にした家族の絆を描くヒューマンドラマ。




【加賀騒動(享保8年(1723年)〜宝暦4年(1754年))】

 加賀百万石を舞台に起こった江戸三代お家騒動の一つ。中心人物だった大槻朝元の名を取り大槻騒動と呼ばれることもある。大槻は身分の低い生まれだったが、加賀藩の世継ぎだった前田吉徳に才覚を認められ重用された。1723年(享保8年)に吉徳が6代藩主となると、傾いた藩の財政を立て直すために倹約や新税などによる改革に乗り出した。大槻は体調の優れない吉徳に代わり改革に尽力し、一定の成果を挙げたものの、改革に対しては武士からも民衆からも不満が強いものだった。

 改革反対派の中心にいたのは年寄役の前田直弼などである。先代の綱紀の頃からの重臣で、大槻の掲げた政策やそれによって利権を奪われることに対する不満、異例の出世を遂げる大槻への嫉妬などが対立の原因だったと考えられる。それでも吉徳が生きている間は、あまり目立った動きは見せなかった改革反対派だったものの、1745年(延享2年)に吉徳は死去。これによって改革反対派が巻き返し、藩の実権を握り大槻は失脚する。翌年、大槻に蟄居、さらにその翌年には流刑が言い渡される。

 吉徳の跡を継いだ宗辰は藩主としてわずか1年、22歳の若さでこの世を去る。そして8代藩主となった宗辰の異母弟の前田重煕を江戸藩邸で何者かが毒殺しようとする事件が起きる。この事件の首謀者は吉徳の側室・真如院(お貞の方)が自らの子を藩主に据えようとした謀略によるものとされ、さらに真如院が大槻と不義密通していたという疑惑まで浮上する。そんな騒動の最中、大槻は1748年(寛延元年)9月に自害して果て、翌年、真如院も没したため、真相は闇の中に消えたまま、騒動には幕が引かれた。

 この一連の騒動は、浄瑠璃や小説などの題材に使われることも多く、脚色された形で世に広められた。そのため、江戸時代は藩の実権を握り我が子を藩主に据えようとする真如院・大槻朝元を悪役とし、忠臣である前田直弼らが藩を守り抜く勧善懲悪の内容として加賀騒動は語られた。しかし、研究が進んだ近年では、そのような一方的な見方は否定されている。



【ストーリー】

 時は加賀藩6代藩主・前田吉徳の時代。春は吉徳の側室のお貞の方の侍女として可愛がられていた。春は料理の腕は一級品だったが、気が強く、一度は商家に嫁に出たもの出戻った経緯があった。そんな折、藩主・前田吉徳の前で開かれた宴席で、料理番の舟木伝内が「鶏もどき」を披露する。この料理の正体を当ててみよという吉徳に、春は簡単に正解を答えてしまう。その確かな味覚に驚いた伝内から、是非、息子の安信の嫁にと乞われた春。一度は断ったものの、その熱意に負けて4歳年下の安信と婚礼を執り行う。

 舟木家は、「包丁侍」と揶揄される料理番の家系。身分は低いものの、殿様の料理係として時に他藩や幕府の要人をもてなすための料理を考案する重要なお役目でもある。しかし、安信は次男坊でありながら長男の死によって突然家督を継ぐことになったため、料理の腕はからっきしの上に剣術の腕で身を立てることに未練を残していた。御料理人の務めにも身が入らない安信の腕は身内からさえ批判されるほど。見かねた春が助力したことに腹を立てた安信だったが、料理人の役職を軽んじる暴言を吐いたことで春の逆鱗に触れてしまい、改めて春の料理の実力を見せつけられた挙句、春のスパルタ料理指導を受けることになる。

 その甲斐あってめきめきと上達し、上役にも認められて出世していく安信。安信には家族同様に昇進を喜んでくれる今井定之進という親友がいるが、春は定之進の妻である佐代と安信がかつて恋仲であったことを知ってしまう。安信は定之進の推挙で藩政改革を進めていた大槻伝蔵と出会う。しかし、藩主の吉徳が急死したことで状況は変わる。保守派の重臣・前田土佐守直躬らの策謀によって大槻は失脚させられ、定之進を含めて藩政改革を支持していた藩士たちには報復が行われる。下級武士であった安信には咎めはなかったものの、今度は藩主・前田重煕の暗殺未遂事件が発生する。出家していたお貞の方も関与が疑われ、春は動揺を隠せない。この毒殺未遂事件は、大槻が自害し、お貞の方も後を追う形で幕が引かれる。

 その後、藩主・重煕が国許に入ることになる。加賀藩はその祝いに徳川家や近隣の大名を集めて饗応料理を振舞うことになる。それは一連の騒動によって地に落ちた加賀藩の威信を取り戻す意味もあり、伝内が頭取、安信が頭取補佐を勤めることになった。しかし、大槻を追い落とした前田土佐守直躬の命令ということもあり、安信はこの仕事に納得ができない。さらに前田土佐守を実力で排除するよりないと定之進たち藩政改革派は暗殺計画を立てていて安信も誘われる。しかし、そのことを打ち明けられた春は、安信を暗殺に関わらせないために刀を奪って逃げ出し、安信は企てに参加することができなかった。定之進たちは全員討ち死にして果て、呆然とした安信は春を手打ちにしようとするが、出来なかった。伝内が病に倒れて安信が饗応料理を仕切ることになった。安信は春とともに食材探しの旅に出る。その旅の中で安信は春への想いを新たにし、春は一つの決断を胸に秘めていた。


【感想】


「包丁侍」という言葉はこの作品の造語だったそうだが、刀ではなく包丁で主君に仕え、下級武士ではあるが料理で主君の健康を守り、接待の折には他藩の者などに「饗応料理」でその威信を示す重要な役目を与えられた武士は存在していた。舟木伝内や安信の残したレシピ集は江戸時代の食生活などを知るうえで重要な史料となっている。


 刀と幼馴染に心を残したまま役目に真摯に向き合うことができない安信が、妻となった春と料理を通じて心を通わせていく様を、時にユーモアを交えながら、時に加賀藩を二分した血なまぐさい抗争の時代を交えながら描いていく。上戸彩さん演じる春が、安信からは「古だぬき」などと呼ばれながら夫を育てていく献身的な姿が印象に残る。


 物語の中で、加賀騒動では春も安信も大切な存在を失った。そういうところをより強調すれば内容的にはもっとアクの強い作品にしようと思えばいくらでもできたはずだが、そうしなかったことで春の健気さだけがとかく胸に残った作品になり、それはそれで良かったのだろうと思う。逆に行えば、それ以外の部分であまり印象に残った部分はなく、平凡と言えば平凡な作品になってしまった感もある。