殿、利息でござる!(2016年)

DATE
日本
監督 : 中村義洋
原作 : 磯田道史「穀田屋十三郎」(短編集「無私の日本人」所収)
<主なキャスト>
穀田屋十三郎 : 阿部サダヲ
菅原屋篤平治 : 瑛太
遠藤幾右衛門 : 寺脇康文
穀田屋十兵衛 : きたろう
千坂仲内 : 千葉雄大
早坂屋新四郎 : 橋本一郎
浅野屋甚内 : 妻夫木聡
とき : 竹内結子
萱場杢 : 松田龍平
先代・浅野屋甚内 : 山崎努
伊達重村 : 羽生結弦
……etc
【作品解説】
2016年5月に劇場公開されたコメディ時代劇。 歴史学者の磯田道史が著した「穀田屋十三郎」(短編集「無私の日本人」所収)が原作。江戸時代中期に仙台藩・吉岡宿で、窮乏していく宿場町の現状を変えるために立ち向かった町人たちの実話を描いた作品。第7代仙台藩主・伊達重村の役を、2018年に国民栄誉賞を受賞した仙台出身のフィギュアスケート選手の羽生結弦が演じたことも話題となった。
【穀田屋十三郎(享保5年(1720年)〜安永6年(1777年))】
江戸時代の仙台藩黒川郡吉岡町(現、宮城県黒川郡大和町吉岡)は、奥州街道の宿場町・吉岡宿が整備されていた。吉岡宿は出羽街道、松島道との分岐点となる交通の要所であった。1615年(元和元年)から1616年(元和2年)に、伊達宗清が吉岡所(吉岡城)を築城し、上町、中町、下町の伝馬町が設置され、宿場町としての体裁もこの頃整えられた。その後、寛文2年(1662年)からは奥山氏、宝暦7年(1757年)から但木氏が館主となっていた。宿場町には重い負担が課せられていたが、吉岡宿は仙台藩の直轄ではないという事情から、藩からの助成が受けられず、窮乏に喘ぎ、吉岡宿を逃げ出す者が相次いでいた。残された者には、さらなる負担がのしかかる悪循環であった。
吉岡宿の運営を仕切っていたのは豪商たちであった。その状況を案じていた造り酒屋を営む穀田屋十三郎(本名:高平十三郎)は菅原屋篤平治と組んで仙台藩に金を貸し付け、その利子を受け取るという案を思いつく。世話役などの賛同を得て、有志を募った。穀田屋十三郎をはじめとした9人の有志は、私財をなげうち一家離散を覚悟して明和3年(1766年)から安永2年(1773年)までの間に1,000両の金を工面し、何度かの願いあげを得て藩に貸し付けるのに成功する。毎年得られた利金を宿場の人たちで分け、窮状を脱した。安永6年(1777年)、穀田屋十三郎は没したが、この顛末や有志達の苦労を龍泉院(りゅうせんいん)住職の榮洲瑞芝(えいしゅうずいし)和尚によって後世に残すために記された。大正時代になって仙台叢書(せんだいそうしょ)第11巻に「國恩記」として取込まれ、現在にもその美挙を伝えている。
【ストーリー】
明和3年(1766年)、仙台藩の宿場町の吉岡宿。妻とともに京から帰ってきた茶師の菅原屋篤平治。朝廷から認められての凱旋であったが、帰ってくるなり乗ってきた馬を取られてしまう。仙台藩では宿場町間で物資の運び役の務めが課せられていた。それは金もかかるし、労力もかかる。しかも、藩より宿場町に出される助成金を、吉岡宿は藩の直轄領ではないから、という理由で受けられずにいた。その為、吉岡宿の住人の負担は過大で町は困窮して、馬もろくに揃えられずにいたのである。町では破産して夜逃げする者が相次いでいた。そんな状況を憂いていた造り酒屋の当主・穀田屋十三郎は代官への直訴を考えていた。この時代に直訴は重罪。篤平治が止めてその場は事なきを得るが、吉岡宿一の知恵者を自認する篤平治にも何か妙案があるわけでもない。
煮売屋「しま屋」で篤平治と十三郎は吉岡宿を救う手立てがないか相談する。篤平治は吉岡宿の有志で金を出し合って藩に貸して利息を取って、それを分配して天馬役に使う、という案を出す。言い出した篤平治にも、とても現実味があるとは思えない案だったが、十三郎は真剣に考え始める。むしろ慌てたのは篤平治だった。下手にお上に目を付けられるようなことをすれば、今まで以上に苦しい立場に置かれるかもしれない。篤平治は吉岡宿の肝煎である遠藤幾右衛門と大肝煎の千坂仲内にまず話を通すように十三郎を説得する。いずれにせよ、お上に話を通すためにはこの2人に話を付けないとどうにもならない。遠藤と千坂の両名とも吉岡宿の現状を憂いており、この計画に賛成する。必要とされる金は1,000両――つまり5,000貫文。秘密裏に金集めを始めた十三郎と篤平治だったが、やがて吉岡宿の人たちの中にも知られるようになっていく。名誉欲に駆られて金を出す者も出始めたり、出し渋った者が白い目で見られたり、私財を処分して金を出そうとする十三郎と息子の間に確執が生まれたりと、問題が次々と出てくる。
十三郎には浅野屋甚内という弟がいた。浅野屋は十三郎の実家の造り酒屋であり、弟が跡を継いで自分が家を出されたことなどから複雑な感情を抱いていた。先代の浅野屋甚内は守銭奴と言われていた男であり、今の甚内も金に厳しい事で知られていた。ところが、その浅野屋甚内が多額の金銭を拠出したことで何とか目標の5,000貫文が集まる。大肝煎の千坂は、この金銭の拠出の多寡や拠出しなかった商人が蔑まれたりして吉岡宿の中で不和が起き始めていることを懸念して、金銭を拠出した商人たちに徹底的に慎みを求め、出資したことを子々孫々まで自慢しないようにと求めた。
十三郎たちの上奏は、代官、郡奉行を経て仙台藩庁に提出される。出入司の萱場杢は、お上の足下を見た言語道断の行為と決めつけてこれを却下する。千坂からそれを聞かされた篤平治は落胆すると同時に、吉岡宿のことを考えて動いていたはずの千坂に心境の変化が起こっていることに気付く。そんな折、悪辣なケチな男だと思われていた先代・浅野屋甚内が、実は吉岡宿から天馬役の負担を軽くしてもらうように願い出るためにコツコツと何十年もかけて金を溜めていたことを知る。跡を継いだ今の甚内も、その志を継いで陰口を叩かれても金を溜め続けていた。その話は、他家を巻き込むわけにはいかないと穀田屋に養子に入った十三郎には伏せられていた。その話に感銘を受けた十三郎も、篤平治も、千坂も、再び計画を進める覚悟を決める。
千坂は再び代官の橋本権右衛門に会いに行く。橋本も浅野屋の2代にわたる思いに胸を打たれ、吉岡宿の者たちの願いを届けようと尽力する。その甲斐あって萱場も申し出を受け入れることを決める。その代わりに、「お上は銭(貫文)を扱わないので、金(両)で納めるように」というお達しであった。これは朗報であるように思えたが、藩が貨幣の製造量を増やしたために銭(貫文)を金(両)を交換する相場が下がっており、さらに数百貫文が必要となる。吉岡宿からさらに金銭を引き出せると踏んだ萱場の罠であった。ここにきて計画は頓挫するかに思えたが……。
【感想】
ポスターの画からかなりコメディに振った時代劇だと思っていたが、実際に観てみると、意外と地味な画に、堅実なカメラワークで、人情が染み入り考えさせられるストーリー。かといって堅苦しすぎない肩の力を抜いて見られる良質の時代劇である。このような奇想天外なことが過去にあったことを驚くと同時に、後世にも伝えていくべきだと強く感じた。
フィギュアスケート選手の羽生結弦が藩主の伊達村重役で映画初出演ということも本作の売りの一つであったが、実際、彼の登場で一気に持っていかれた感がある。出演は他の出演者にも伏せられていたそう。スクリーン越しにも、何か一つの世界で、世界の頂点を獲った人にはある種のオーラがあると感じられた。