プライドと偏見(2005年)
DATE
Pride & Prejudice/イギリス
監督 : ジョー・ライト
原作 : ジェイン・オースティン『
高慢と偏見』(大島一彦(翻訳)/中公文庫)
<主なキャスト>
エリザベス・ベネット : キーラ・ナイトレイ
フィッツウィリアム・ダーシー : マシュー・マクファディン
ベネット氏 : ドナルド・サザーランド
ベネット夫人 : ブレンダ・ブレッシン
キャサリン夫人 : ジュディ・デンチ
ジェーン・ベネット : ロザムンド・パイク
ウィッカム : ルパート・フレンド
ビングリー : サイモン・ウッズ
……etc
【作品解説】
2005年9月にイギリスで、日本では2006年1月に劇場公開された。監督を務めたジョー・ライトは、この映画が長編初監督作品で、高い評価を受けて一躍注目された。ヒロインのエリザベスを演じたキーラ・ナイトレイは、この作品で第78回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
【高慢と偏見(Pride and Prejudice)】
『Pride and Prejudice』はイギリスの女性小説家、ジェイン・オースティン(1775年〜1817年)が1813年に刊行した、自身2作目の長編小説であった。彼女が20才〜21才の頃に執筆した「第一印象」が元だったが、そのときは出版社に父が手紙を送るも出版を断られという。その後、訂正を加え、1813年1月に現在の題名で刊行された。日本では「高慢と偏見」「自負と偏見」「自尊と偏見」などの邦題で、日本語訳が出版されている。
18世紀末頃のイギリスの片田舎を舞台に、誤解と偏見があり衝突し、すれ違いながらもひかれあっていく男女を描いた恋愛小説。他のジェイン・オースティンの作品にも言えることだが、彼女が生きた時代はフランス革命からナポレオン戦争の時代にもかかわらず政治的な出来事に対する言及がほとんどなく、自分が知っている世界のことしか書かないという姿勢が貫かれている。ジェイン・オースティンの最高傑作の呼び声高く、現在も愛好家が多い作品である。
【ストーリー】
18世紀末のイギリスの片田舎。女子には相続権が無く、結婚が現代とは比べものにならないほど切実な問題だったころ。ベネット家は女ばかりの5人姉妹の家庭であった。父親の父のべネット氏が死んでしまったら遺産は全て会ったこともない遠縁の親戚のところに行ってしまい、娘たちは路頭に迷ってしまうと考え、ベネット夫人は良い相手とくっつけようと躍起になっている。それをベネット氏は冷ややかな目を向けている。
そんなある日、近所の館に独身の富豪であるビングリー氏が引っ越してくる。ビングリーは陽気な好青年だった。ビングリーと一緒にやってきていたウィリアム・ダーシーは、ビングリーよりさらに資産を持つ男だったが、とても気むずかしい人物だった。舞踏会に招かれたベネット家の娘たち。長女のジェーンはビングリーに好意を持つようになり、ビングリーも好ましい感情を抱いたのは明らかだった。次女のエリザベスは、ダーシーが自分のことを「容姿はまあまあだが強いて踊りたいほどではない」と侮辱しているのを聞いてしまい憤慨する。数日後、ビングリーの館に招かれたジェーンは、そこで体調を崩してしまい、エリザベスは看病に向かう。そこで目の当たりにしたダーシーやビングリーの妹のキャロラインの取る上流階級の鼻持ちならない態度に不快を新たにする。さらに、知り合った軍の士官のウィッカムから、ダーシーから受けた仕打ちを聞かされ、ダーシーに対する印象をさらに悪くする。そのため、ダーシーの自分に対する感情が変化していることに気づかなかった。さらに、ビングリーが突然、この土地を離れることになり、ジェーンは大いに落胆する。
ベネット家に、コリンズという男がやってくる。ベネット家の遺産相続人である彼はエリザベスに求婚する。堅苦しく中身のない男だと軽蔑していたエリザベスはそれをきっぱりと断る。結局コリンズはエリザベスの友人のシャーロットと結婚する。シャーロットは器量も良くなく、20代の後半という年齢から、安定を求めての結婚だった。それからしばらくしてシャーロットの新居に招かれたエリザベスは、そこでダーシーと再会する。ダーシーがビングリーとジェーンを引き離したことを知ったエリザベスは激しく憤る。ところが、いつしかエリザベスに好意を持つようになっていたダーシーから求婚される。ジェーンのことやウィッカムのことを持ち出し罵倒するエリザベスだったが、ダーシーは、エリザベスの両親や妹たちの無礼な振る舞いや内心を見せないジェーンの態度を挙げ、ビングリーを引き離したのは正当だったと反論する。さらに、ウィッカムとダーシーの確執は、ウィッカムの怠惰さが原因であるという弁明がなされる。思い返せばエリザベスにも思い当たるところがあり偏見で目が曇っていたことを思い知らされる。
それからしばらくして、エリザベスは叔父叔母であるガーディナー夫妻との旅行をする事になり、ダーシーの屋敷に近くを通りがかる。ダーシーの屋敷を見学できると知り、領主は不在というのを信じて立ち寄ることに。ところが、所用を早めに切り上げて帰ってきたダーシーと再会してしまう。狼狽えるエリザベスとは裏腹に、再会したダーシーは以前とは雰囲気が違っており、エリザベスに歩み寄ろうとしていた。ところが、ベネット家から恐ろしい知らせが届く。
【感想】
とてもきれいな映画、というのが最初の印象だった。18世紀のイギリスの素朴な田舎の自然や古い領主の館などの風景を、そのままスクリーンに持ち込んだような印象を受けた。原作にはない戦争の話を入れたりだとか、要らぬキスシーンだのベッドシーンだのといった余計な脚色を入れずに、原作と誠実に向き合って映画化しているのは好感が持てる。お互いのプライドと相手に対する偏見が邪魔をして最悪な出会いをした二人が徐々に距離を縮め、真摯な心で向き合い結ばれる気高く美しい恋愛物語。19世紀当時の女性が抱えていた問題が生々しく描かれるが、それらを皮肉的に軽妙に描いた、原作の魅力を損ねずに映画化した作品であったと思う。
原作が描かれた時代から200年が経ち、女性を巡る環境も大きく変化したかもしれない。結婚だけが女の幸せ。結婚しない女は路頭に迷う。などという時代ではなくなったかもしれない。しかし、人の本質が変わったわけではないだろう。人が持つ自分をより高い場所にいたいという虚栄にも似た高慢さと、自分の価値観や思い込みの中だけでしか判断できない偏見が人の目を曇らせてしまう。人間が持つそれらの心を、どうやったら乗り越えていけるのかと言うのは、現代にも通じるテーマなのではないかと思えた作品だった。