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パトリオット(2000年)





DATE

The Patriot/アメリカ
監督 : ローランド・エメリッヒ

<主なキャスト>

ベンジャミン・マーティン : メル・ギブソン
ガブリエル・マーティン : ヒース・レジャー
ハリー・バーウェル : クリス・クーパー
コーンウォリス : トム・ウィルキンソン
ウィルキンス : アダム・ボールドウィン
ウィリアム・タヴィントン : ジェイソン・アイザックス
                        ……etc

目次
『パトリオット(2000年)』の作品解説
キーワード『アメリカ独立戦争(1775年〜1783年)と時代背景』
『パトリオット(2000年)』のストーリー
『パトリオット(2000年)』の感想


【作品解説】

 メル・ギブソン主演、ローランド・エメリッヒ監督作品。タイトルのPatriotは辞書を引くと「愛国者」とか「志士」とか言った言葉が出てくる。アメリカ独立戦争を背景に、かつての戦場の英雄であり今はよき父である主人公が、イギリス軍によって蹂躙された息子の復讐、そして命を残した家族を守るためにイギリス軍に戦いを挑む。その戦いが新たに生まれようとしているアメリカというまだ見ぬ国への愛国心へと昇華されていく姿が、壮大なスケールで描かれている。

 主人公のベンジャミン・マーティンは架空の人物だが、アメリカ独立戦争中は大陸軍中佐、のちにサウスカロライナ民兵准将として活躍したフランシス・マリオンがモデルであり、当初はマリオンを主人公にしたストーリーであったという。マリオンは独立戦争中は囮戦術や伏兵戦術といった敵を攪乱する戦法を駆使し、“沼の狐”の異名で知られた。近代ゲリラ戦の父と称されているマリオンだが、ゲリラ戦法には「卑怯」とか「残虐」といったダーティなイメージが付きまとう。主人公を架空の人物にしたのは、論議の対象とされることを避けるためであったという。


【アメリカ独立戦争(1775年〜1783年)と時代背景】

 18世紀の世界の覇権を握ったのはイギリスだった。イギリスは、アウクスブルク同盟戦争(1688年〜1697年)、スペイン継承戦争(1701年〜1714年)、オーストリア継承戦争(1740年〜1748年)、7年戦争(1756年〜1763年)といったヨーロッパのみならず北米やインドなど植民地を巻き込んだヨーロッパ諸国間での戦争に勝利した。北米での植民地競争やインド支配においても、ライバルのフランス、オランダに勝利し、強大な重商主義帝国を築くことになった。しかし、これらの戦争によって――特に激しく争ったイギリス、フランスは疲弊し、財政再建が急務となった。

 7年戦争で北アメリカの植民地をフランスから守り抜いたイギリス本国は、北アメリカの植民地に対して、そのために要した戦費の一部を課税することに決めた。植民地は独自の議会を設け、イギリス本国も植民地の自治を認めていたが、新たな課税は植民地に対して相談もなく、イギリス本国の議会で植民地の代表がほとんど発言する機会もないまま一方的に決められたものだった。自治を求める植民地側の反発や不満は、パトリック・ヘンリーの「代表なくして課税なし」「我々に自由を与えよ。さもなくば死を与えよ」といった言葉がよく表しているだろう。

 イギリス本国と植民地側の対立は、種々の課税や法の制定がなされるたびに深刻さを増していった。1770年3月、ボストンでイギリス軍兵士と市民の衝突が起こる。暴徒と化した市民が数人の兵士を取り囲み、罵声を浴びせるばかりではなく瓦礫や石や雪玉を投げつけた。これに対して、兵士側も発砲。市民11人が被弾し、内5名が死亡した。この事件はボストン虐殺事件として植民地の急進派によって誇張され、プロパガンダに利用された。1773年12月に、5月に茶法が制定されイギリス本国は東インド会社が茶の輸入を独占することを認めたことに端を発し、急進派がボストンの港に停泊する東インド会社の船を襲撃し、積み荷の茶を次々と海に投げ込む事件――俗に言うボストンティーパーティ事件が発生する。ボストン茶会事件と和訳されることもあるがtea partyのpartyは一隊、一行、一団といった意味である。

 北アメリカの植民地の立場は、あくまでもイギリス本国との対等な立場での関係を求めたものだったが、イギリス本国は次々と懲罰的な立法措置を行い強硬な態度で臨んだ。この頃のイギリス本国の国王はジョージ3世であった。1760年10月に22歳で即位してから1820年1月に81歳で崩御するまで、その治世は戦争に彩られ、議会の力が強くなったイギリスにおいて王権を回復しようと尽力した。イギリス本国の中にも、反発を強める北アメリカの植民地に対し、穏健な対応を取るべきという意見もあったようだが、ジョージ3世の強い意向の前に強硬な姿勢をとったとも言われる。その為、アメリカでは近年再評価の動きが進むまでは暴君とされ、イギリスでは植民地政策の失敗のスケープゴートとして不当に低い評価をされた。対する北アメリカ東海岸の13の植民地では12の植民地の議会から代表が集まり1774年9月から10月に第1回大陸会議が開催され結束が確かめられた。

 1775年4月ボストン郊外のレキシントン・コンコードで戦端が開かれ、寄せ集めの民兵集団であった植民地の軍が駐屯していたイギリス軍に勝利した。6月に大陸会議によりジョージ・ワシントンが総司令官に任命された。アメリカ大陸の植民地は、自治を求めていたが最初から独立を望んでいたわけではなかった。植民地の中にもイギリス本国を支持する者も多かった。植民地には強力な軍組織と呼べるようなものはなく、独立支持派とイギリス本国支持派の勢力は拮抗していた。'76年1月に発売されたトマス・ペインの著作である「コモン‐センス」は、独立の必要性と共和制の肯定を平易な文章で書き、植民地の独立への機運上昇に大きく貢献した。同年7月に独立宣言が発表される。植民地内のイギリス本国支持者への牽制と国外への支援を求める目的があった。

 植民地側の善戦は、イギリスに植民地競争で敗北していたフランスをはじめ、強くなりすぎたイギリスを叩くチャンスを狙っていたヨーロッパ各国に、参戦を決意させた。1778年、フランス、スペイン、ネーデルランドなどが植民地支援のために参戦。ロシアを中心にバルト海や北海沿岸の諸国により1780年に発足した武装中立同盟がイギリスの妨害を無視してアメリカとの交易を継続する。それらによって国際社会から孤立したイギリスは1781年のヨークタウンの戦いで大敗し、独立戦争の趨勢は決した。イギリスは1783年のパリ条約によって東海岸の13植民地の独立を承認した。


【ストーリー】

 主人公のベンジャミン・マーティンは、サウスカロライナで広大な農場を経営し、亡き妻の願い通り7人の子供を育て戦争とは無縁な平穏な生活を送っていた。かつてはフレンチ・インディアン戦争の英雄であったベンジャミンは、戦争の悲惨さや愚かさを身を持って体験していた。しかし、再び戦火が迫り来ようとしていた。自治を求めるアメリカ大陸の植民地に対し、イギリス本国は軍を送り込んでこれを押さえつけようとした。開戦か従属か――。サウスカロライナ植民地でも、その選択が迫られていた。戦うことを拒否するベンジャミンに反発した長男のガブリエルは、大陸軍に志願する。

 2年後、負傷したガブリエルが家に逃げ込んでくる。ベンジャミンの家の近くで起こった戦闘の負傷者を、敵味方問わずに救護するベンジャミンだったが、イギリス軍のウィリアム・タヴィントン大佐が率いる部隊がガブリエルをスパイとして連行しようとする。抵抗した次男のトーマスは殺され、ガブリエルは連行される。ガブリエルを救出するべくイギリス軍部隊の先回りをしたベンジャミンは、怒りに燃える冷酷な本能をむき出しにし、全員を殺してガブリエルを救出する。

 再び戦場へと赴くことを決意したベンジャミンは、旧友のバーウェル大佐を頼って大陸軍に参加し、ガブリエルを自らの部下にし、民兵を募ってイギリス軍への襲撃を開始する。様々な背景を持って戦場に身を投じた民兵たちに手を焼きながらもまとめ上げ、イギリス軍を苦しめるベンジャミン。これまでにない神出鬼没な戦いぶりに、イギリス軍から「ゴースト」と呼ばれ恐れられるようになる。「ゴースト」に手を焼いたイギリス軍の将軍は、タヴィントン大佐にその対応を命じる。タヴィントン大佐は目的のためには手段を選ばず、敵はおろか敵に与したとみなした者に対して情け容赦のない悪辣な戦い方でイギリス軍上層部からもよく思われていなかったが、ベンジャミンたちを相手にするには適任の指揮官であった。ベンジャミンと仲間たちは、独立という大義のために多くの犠牲を払いながらも命を懸けて戦った。フランスの参戦もあり、大陸軍に戦況が傾く中、最後の戦いを迎えようとしていた。ベンジャミン率いる民兵も、大陸軍の一員として戦闘に参加する。そしてイギリス軍の中には、宿敵タヴィントン大佐の姿もあった。


【感想】

 アメリカ独立戦争はアメリカではアメリカ独立革命(American Revolution)とか革命戦争(Revolutionary War)などと呼ばれているという。イギリスからの独立のみならず、新国家の形成や共和制の確立、様々な社会革命を成し遂げた。独立戦争は、イギリスから離れる戦争ではなく建国の戦争であった。アメリカという国のアイディンティティに関わる出来事の映画化であるから力の入った映画だっただろう。家族愛により立ち上がるかつての英雄の復讐劇。尺の長い映画だったが、「かつての戦争に従軍し戦争の悲惨さを誰よりも知っている平穏を望む元英雄」を主人公に、「目的のためなら手段を選ばない悪辣なイギリス軍大佐」率いるイギリス軍との戦いを描いた秀逸な戦争アクション。非常に単純な構図で深さを感じない作品だったが、それぞれのキャラクターがいい味を出していて、最後までダレずに見えた。

 アメリカ独立戦争を描いた映画として見ると、予備知識がないとどう戦況が推移しているか分からないかもしれない。しかし、植民地側にもイギリス本国支持者が多くおりイギリス軍にも参加していたことなど、当時の世情を色々と知ることのできる映画である。民兵を率いるベンジャミンのゲリラ戦は、イギリス軍の指揮官を狙い、自らの姿は見せずに敵を撃つ。騎士道精神を重んじるイギリス軍の将からは外法である。外道には外道をぶつけろとばかりに投入したタヴィントンは、ベンジャミンの家族を匿った民家を焼き払い、民兵たちをおびき寄せるために民兵に協力したとして一般市民を協会に閉じ込め火を放つという暴挙に及ぶ。ここまでのことがなされたかは別として、タヴィントン大佐のモデルとなった残虐で知られたイギリス軍人もいたらしい。何となく、アメリカが市民が銃を持つ権利を放棄させることができない理由が垣間見えたような気がする。