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クォ・ヴァディス(1951年)





DATE

Quo Vadis/アメリカ
監督 : マーヴィン・ルロイ
原作 : ヘンリク・シェンキェヴィチ『クォ・ウァーディス 上』(梅田良忠(翻訳))

<主なキャスト>

ネロ帝 : ピーター・ユスティノフ
マーカス・ヴェニシウス : ロバート・テイラー
リジア : デボラ・カー
ペトロニウス : レオ・ゲン
            ……etc

目次
『クォ・ヴァディス(1951年)』の作品解説
キーワード『ネロ帝(37年〜68年)』
『クォ・ヴァディス(1951年)』のストーリー
『クォ・ヴァディス(1951年)』の感想


【作品解説】


 日本では1953年9月に公開されたアメリカの歴史映画。原作はポーランドの作家、ヘンリク・シェンキェヴィチが著した「クォ・ヴァディス: ネロの時代の物語」。サイレント映画の時代から何度も映像化されてきた名作。その中でも1951年版は最も有名な作品であり、アカデミー賞でも作品賞など7部門で候補になった評価の高い作品であるが、受賞にはならなかった。



【ネロ帝(37年〜68年)】

 ネロ帝はローマ帝国の第5代皇帝。皇帝だったのは紀元54年から68年。最初の5年ほどは補佐役のセネカや、近衛隊長のブルスといった側近たちの力を借りて善政を敷いたが、やがて残忍な性質を見せるようになり、暴君ネロとして現代までその悪名を残すこととなった。最大の悪行とされるのは、当時新興宗教だったキリスト教への弾圧である。64年のローマ大火の際、事実ではなかったが、「大火はネロ帝によるものだ」とまことしやかに囁かれたため、スケープゴートとしてキリスト教弾圧を行った。後に世界中にその影響を与える事になるキリスト教徒を弾圧したため、彼らに憎まれ不当に酷い評価をなされている面があるのも確かな人物ではある。

 ネロの母親のアグリッピナは、悪名高い皇帝カリギュラの妹で自身もとかく野心家だった。4代皇帝のクラウディウスが妻メッサリーナを重婚の罪で処刑すると実子であるネロを皇帝にするためクラウディウスと結婚し、ネロを養子とした。さらに、クラウディウスを暗殺すると16歳のネロを皇帝にした。この時、クラウディウスの遺書も存在し、後継者の名前も書かれていたとされるが、公開されることはなかった。一説では、そこにはネロの名ではなくクラウディウスとメッサリーナの皇子の名前があったとされる。

 ネロは、政治にも口を出すだけでなく、自分の言いなりにならないとなるとクラウディウスの息子を担ぎ出しネロの政治的立場に揺さぶりをかける母の存在に危機感を抱いた。そこでネロはクラウディウスの子だけではなくアグリッピナをも殺害した。この頃の、ローマ皇帝は元老院の信任を得なければならずその政治的地位は絶対のものではなかった。ネロは元老院から不信任を突きつけられることを恐れ、自身の敵を粛清することで地位を護ろうとしていた。さらに、奸臣の言葉に従いセネカを隠遁させると、妻と別れた挙句流罪にし、殺害した。そして自分は人妻で愛人だった女と結婚した。

 ネロの悪名を決定付けたのは64年のローマ大火だった。この時、ネロは避暑に出かけていたが、大火の報を受けると急ぎローマへ戻り、迅速に被災者の支援を行った。しかし、この時かねてより計画していた黄金宮殿の建築を始めてしまったことが原因で、大火の本当の原因は宮殿建設のためにネロ自身が放火したのではないかと噂されることになった。あわてたネロは、この罪を誰かにかぶせようと考え、そのスケープゴートに選ばれたのが、当時まだ新興宗教に過ぎなかったキリスト教だった。この時処刑されたキリスト教徒の数は300人にも上ったとされる。処刑は公開で行われたが、あまりに残虐だったため、かえってキリスト教徒への同情が広まり目論見は失敗に終わった。

 ローマの復興は属州への税負担の増加を招いた。そのことに対する不満が原因なのか、次々とネロ暗殺の陰謀が発覚した。それに嫌気がさしたのか、ネロはもともと傾倒していたギリシア文化の中心地へ、歌の力試しに出かけた。せいぜい下手の横好きレベルに過ぎなかったということだが、ネロはローマの最高権力者。きっと喝采を浴びて大満悦で帰国したことだろう。しかし、帰国したネロを待っていたのはガリア総督ウィンデクスの反乱だった。反乱はすぐさま鎮圧されたものの、続いてヒスパニア・タラコネンシスの総督ガルバが立ち上がると、ローマの近衛軍団もそれに同調した。民衆の支持も失っていたネロに、元老院は国家の敵の烙印を押した。近衛軍団・ローマ市民・元老院から見捨てられたネロはローマを逃れるが、追い詰められ自害する。その後には、次々と軍人皇帝が誕生する混乱の時代が待っていた。


【ストーリー】


 ローマ大火の直前にマーカス・ヴェニシウスが帰国する所から物語が始まる。帰国の際、立ち寄った元将軍の家で、リジアと出会う。彼女は、王族の娘で、人質として連れてこられてきた。一目見てリジアを気に入ったマーカスは、彼女を褒美として受け取るように申し出る。その願いはかなえられたが、リジアは逃亡してしまう。執念でリジアを探し出したマーカスは、彼女がキリスト教徒であったことを知る。当時、まだ新興宗教に過ぎなかったキリスト教は、ローマ市民の奥深くでじわじわとその勢力を増していた。

 彼女を取り返そうとしたマーカスだったが、逆に返り討ちにされ、リジアに手当てを受ける。そこで、リジアが自分に対して好意を持っていると知ったマーカスは、己の神か自分か、どちらかを選べと迫る。リジアはマーカスを選べなかった。リジアを諦めたマーカスだったが、ローマ大火が起き、リジアの危機を知る。馬を駆ってリジアの元に向かうマーカス。かくして二人は再会するが、ネロはキリスト教の弾圧を始め、リジアを含めて多くのキリスト教徒が逮捕される。残酷な処刑が始まる中、2人の愛の行方は……。


【感想】

 ローマ時代を舞台にした壮大な歴史大作。戦後のハリウッドはキリスト教徒とユダヤ資本の影響力が大きくその両方を迫害したローマ帝国が"悪役"になった作品は数多い。ある意味その極みのような気がする作品なのだが、そのあたりを無視して見れば歴史に残る名作である。特に、ネロを演じたピーター・ユスティノフの圧倒的な存在感は群を抜いている。

 メインはマーカスとリジアのラブストーリーだが、最初の半分がかなり退屈。大火のころから俄然面白くなってくる。前半のハイライトはマーカスとリジアが好意を抱きあっていて、その間の障害として信仰の壁が立ちはだかることが明らかになる。それまで約100分間。半分でもよかったんじゃないだろうかと思う。