スパルタカス(1960年)
DATE
Spartacus/アメリカ
監督 : スタンリー・キューブリック
<主なキャスト>
スパルタカス : カーク・ダグラス
マーカス・リシニアス・クラサス : ローレンス・オリヴィエ
バリニア : ジーン・シモンズ
グラッカス : チャールズ・ロートン
レンチュラス・バタイアタス : ピーター・ユスティノフ
アントナイナス : トニー・カーティス
ジュリアス・シーザー : ジョン・ギャヴィン
ドラバ : ウディ・ストロード
クラウディア・マリウス : ジョアンナ・バーンズ
……etc
【作品解説】
日本では1960年12月に劇場公開されたアメリカ映画。共和政ローマ後期に起こったスパルタクスを首謀者とする奴隷反乱を舞台にした歴史スペクタル映画。ハワード・ファウストの小説をカーク・ダグラスの製作総指揮・主演で映画化した作品。当時まだ無名だったスタンリー・キューブリック監督の作品としても知られる。
当初はアンソニー・マンが監督を務めていたがカーク・ダグラスと撮影方針をめぐって衝突し、解任された。また、スタンリー・キューブリック監督がダルトン・トランボの脚本を現場で書き換え、脚本クレジットを主張するなど、衝突があったという。しかし、映画としての評価は高く、第33回アカデミー賞ではピーター・ユスティノフが助演男優賞を受賞したのをはじめ4部門を獲得した。
【スパルタクスの反乱(紀元前73年~紀元前71年)】
古代ローマの奴隷反乱中最大のものが紀元前73年から紀元前71年にかけて起こった第三次奴隷戦争であった。首謀者の名からスパルタクスの反乱などとも呼ばれる。
スパルタクスは、元はトラキアの兵士だった。ローマと戦い奴隷となった彼は、剣闘士に身を落としていたが、「見世物のためよりも自由のためにこそ危険を犯すべき」と剣闘士養成所の剣闘士200名ほどを扇動し、見張りを殺して脱走した。その多くは追手に捕らえられたが、80名弱の仲間とともにウェスウィウス山へと逃げ込んだスパルタクスたちは、武装をし、討伐隊を撃破し略奪を繰り返していく。その過程で、スパルタクスの元には大勢が集まり7万もの兵力に膨れ上がる。アルプスを越えてそれぞれの国に帰ろうとした反乱軍だったが、冬のアルプス越えを断念し、今度は南イタリアへと向かいシチリア島に逃れようとした。その間、ローマから幾度となく追討軍が差し向けられたが、スパルタクスは優れた指導力を発揮し、ローマ軍は連戦連敗した。しかし、どこの都市もスパルタカスの軍に救いの手を差し伸べなかったので、ひとつの都市を占領し、武装の充実を図ろうとした。
スパルタクスの軍の前に立ちはだかるのはローマ随一の大富豪と言われたマルクス・リキリウス・クラッススの軍団であった。クラッススは敗北した自分の軍団に厳しく残忍な刑罰を与えることで、軍団の引き締めを図ったと伝えられる。南イタリアを制圧してシチリア島へと向かおうとしたスパルタクスの軍は、カラブリアでクラッススの軍団に包囲される。ローマではスペインの戦線から戻ってきたポンペイウスの軍に反乱軍追討の命令が下される。ローマ軍の総指揮を取っていたクラッススは、ポンペイウスにスパルタカス追討の名誉を持っていかれるのを嫌った。スパルタクスは、ポンペイウスの先を突いてクラッススを協約に誘おうとしたが、クラッススが無視したため、全軍を動かし包囲の突破を試みる。
ルカニアでスパルタカスの軍と、クラッスス率いるローマ軍は決戦となった。スパルタクスと、彼と行動を共にする戦士たちは奮戦したが、ついに投槍がスパルタクスの腿に突き刺さった。膝をついたスパルタクスは必死に防戦したが、ついにローマ兵に囲まれ、斬り殺された。スパルタクスの軍は大量の犠牲者を出し壊滅した。一部は山の中に立てこもるが、クラッススの軍と駆けつけたポンペイウスの軍とによって完全に制圧された。生き残ったのは6000名ほどで、彼らは捕らえられアッピア街道に見せしめとして張り付けられた。ローマ軍によって殺された反乱軍の数はあまりの殺戮のひどさに正確な数を数えることはできないほどだった。そして、スパルタクスの死体はついに発見されなかった。
【ストーリー】
古代ローマ時代。リビア鉱山で働く一人のトラキア人の奴隷が、奴隷商人によって買われていった。その男こそ、スパルタカスだった。奴隷商人はスパルタカスを剣闘士として鍛え上げようと剣闘士の養成所に入れる。剣闘士上がりの教官から屈辱を味わわされるものの、剣闘士として頭角を表していく。また、そこで働く女奴隷のバリニアとは互いに好意を抱きあうようになる。あるとき、彼の元にクラサスという大物貴族がやってきて、剣闘士の試合が観たいと言い出した。しかも、どちらかが死ぬまでの殺し合い。そんな戦いで命を落とす剣闘士たちの士気を考えると、剣闘士養成所の主も引き受けたくはなかったが、最後は大金を詰まれて承諾してしまう。それに選ばれたスパルタカスは黒人奴隷と戦い敗れてしまう。しかし、その黒人奴隷はスパルタカスに止めを刺さずにクラサスに向かっていったため、衛兵らに阻まれ無残に殺されてしまう。そして、黒人奴隷の死体は見せしめとして逆さに吊るされた。さらにクラサスは接待に出たバリニアを気に入り、購入することを決める。売られていくバリニアを目撃したスパルタカスは激昂して教官に襲い掛かり、同調した剣闘士奴隷たちとともに教官や衛兵を殺害して養成所を脱走する。
ローマに不満を抱く奴隷たちを次々に味方につけ、その勢力を拡大しながら貴族たちの荘園を襲うスパルタカスの軍。ローマでは元老院派と民衆派との主導権争いが続いていた。民衆派の政治家は、元老院派の力を削ぐために、元老院派のクラサスの親友を焚き付けてスパルタカスの軍への討伐隊として派遣する。ローマの留守兵団の司令官に任ぜられたのは民衆派の青年将校、ジュリアス・シーザーであった。スパルタカスを舐めてかかった討伐隊は返り討ちに遭う。ローマからの討伐隊を次々に撃破するスパルタカスの狙いはシチリアの海賊たちの助力を得て海を渡り、自由の身になることだった。ローマでは元老院によってクラサスが筆頭執政官兼全軍総司令官に指名しかし、クラサスの姦計により海賊に裏切られ、ローマとの直接対決に臨まなければならなくなってしまう。スパルタカスは、ついにクラサスとの最終対決を向かえる。
【感想】
いまだ色あせぬ名作、と書くとチープな表現になってしまうが、ローマ史に興味のある人にはぜひ見ていただきたい作品。この作品のもう一人の主人公クラサスは、後にユリウス・カエサルらとともに第一回三頭政治を行う人物。ローレンス・オリヴィエが理想のローマ、護るべきローマを追求しながら、そうでない人間を容赦なく切り捨てていける冷酷な人間として演じている。ローマの属州中で反乱が起こっていたこの時代、良くも悪くも彼のような人物が求められていたのだろう。
戦闘が終わり捕虜としたスパルタカスの兵士たちを前に、クラサスは言う。
「スパルタカスを引き渡せ。そうすれば、命は助けよう」
それに応じて、捕虜たちは口々に叫ぶ。
「俺がスパルタカスだ!」
この場面は映画史に残る名場面だと思っている。現代日本で、自由でいることのありがたみを感じることは少ないかもしれない。自由を求め、解放を求めての戦いというものがある、ということにはピンと来ないかもしれない。しかし、映画公開はアメリカにも徴兵制が残る1960年。第二次世界大戦の記憶も新しく、東西冷戦の中、朝鮮戦争では4万人強の米兵が命を落とし、ベトナム戦争への本格的な派兵が始まろうとしていた。自由を求めるのは命がけ――そうでないことのありがたさを新ためて噛みしめたい一本である。