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マリー・アントワネットの首飾り(2001年)





DATE

The Affair of the Necklace/アメリカ
監督 : チャールズ・シャイア

<主なキャスト>

ジャンヌ : ヒラリー・スワンク
レトー : サイモン・ベイカー
ロアン枢機卿 : ジョナサン・ブライス
ブルトゥイユ男爵 : ブライアン・コックス
ニコラ : エンドリアン・ブロディ
マリー・アントワネット : ジョエリー・リチャードソン
カリオストロ伯爵 : クリストファー・ウォーゲン
                     ……etc

目次
『マリー・アントワネットの首飾り(2001年)』の作品解説
キーワード『首飾り事件(1785年)』
『マリー・アントワネットの首飾り(2001年)』のストーリー
『マリー・アントワネットの首飾り(2001年)』の感想


【作品解説】

 日本では2002年2月に劇場公開されたアメリカ映画。フランス革命の直前に起こり、フランス革命の原因の一つと言われることもある首飾り事件をモチーフにした作品。第74回アカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされた。


【首飾り事件(1785年)】

 フランス革命直前の1785年にフランスで起こった詐欺事件。内容は160万リーブル(フランスで1795年まで使われていた通貨)の豪華な首飾りの売買を巡るもので、王妃マリー・アントワネットの名を勝手に使って行われた典型的なかたり詐欺であったが、その後の影響は大きかった。フランス国民は王妃の事件への共謀を信じ、王妃の評判は悪化した。フランス革命初期の最大指導者ミラボーは「あの事件は、大革命の序曲だった」と位置付ける。

 この事件の主犯であるジャンヌ・ド・ラ・モット伯爵夫人の父、ジャック・ド・サン・レミ男爵はヴァロア朝10代フランス王アンリ2世の庶子アンリ・ド・サン=レミの子孫であったという。ジャンヌは1780年ごろ、国家憲兵の士官だったマルク・アントワーヌ・ニコラ・ド・ラ・モット伯爵と知り合い結婚し、ラ・モット伯爵夫人となっていた。首飾り事件の時は30歳くらいだったという。

 ジャンヌは宮廷司祭長などの要職を兼任していたロアン枢機卿に近づく。ロアン枢機卿は、名門貴族の出身で財産家であり、出世欲の旺盛な男だったが、マリー・アントワネットに嫌われていて、これ以上の立場は望めなかった。ラ・モット伯爵夫人は「自分はヴァロア王朝に繋がり、王妃とも親しい」と嘯いてロアン枢機卿に近づいた。ロアン枢機卿を信用させるためにジャンヌは、マリー・アントワネットからの手紙を偽造したり、娼婦を変装させてマリー・アントワネットと偽らせてロアン枢機卿に会わせたりした。

 事件のもう一つの主役である540個のダイヤを散りばめた160万リーブルの豪華な首飾りは、もとは 1774年5月に崩御したルイ15世の公妾であったデュ・バリュー夫人のために作られたものだった。しかし、ルイ15世が崩御し、デュ・バリュー夫人が宮廷を追い出されたため、首飾りは行き先を失っていた。宝石商は、これをマリー・アントワネットに買い取ってもらおうとしたが、いくら宝石好きのマリー・アントワネットと言えども簡単に手を出せる額ではなかっし、マリー・アントワネットはデュ・バリュー夫人を嫌っていたので、断られてしまっていた。それを知ったラ・モット伯爵夫人は、この首飾りを自分のものにしようと一計を案じる。ラ・モット伯爵夫人はロアン枢機卿に、マリー・アントワネットが代理としてこの首飾りを購入してもらいたがっていると吹き込む。そしてロアン枢機卿が分割購入した首飾りを、王妃に渡すと偽って持ち逃げし、それをばらしてロンドンで売り払った。

 ロアン枢機卿は、財産家ではあったがとんでもない浪費家でもあった。そのため宝石商への支払いを早々に滞らせてしまう。王妃の代理で首飾りを購入すると聞かされていた宝石商は、これを王妃の側近に問いただしたため事が露見した。ルイ16世らを前に、ロアン枢機卿は申し開きをすることになったが、ラ・モット伯爵夫人を信用しきっていたロアン枢機卿にとっても寝耳に水の話だった。ロアン枢機卿は逮捕され、ラ・モット伯爵夫人をはじめとした共犯者も次々と逮捕された。ラ・モット伯爵夫人は全ての罪をロアン枢機卿とマリー・アントワネットになすりつける算段だったが、共犯者が口を割り、目論見は外れた。裁判の結果、ラ・モット伯爵夫人を首謀者と認定し、鞭打ちの後、泥棒を意味する「Voleuse」の頭文字「V」の焼き印を押されたうえで終身禁固の刑となった。しかし、いつの間にかイギリスへ逃走し、1791年に35歳で転落死した。ロアン枢機卿は無罪とされた。ロアン枢機卿無罪の判決が出たため、フランスの民衆は裏で糸を引いていたのはマリー・アントワネットだと疑い、噂しあい、結果、フランス王家の威信に傷がつくことになった。


【ストーリー】

 主人公のジャンヌ(ラ・モット伯爵夫人)は名門の出身でありながら、父親が王家を批判したという嫌疑をかけられたため家も財産も失ってしまう。さらに母親をも失い、絶望の中で成長する。しかし、家名を復活させ、失った家を取り戻そうと、爵位目的の愛のない結婚をしたジャンヌは、何とか、王妃マリー・アントワネットに近づこうとする。失敗どころかマリー・アントワネットの取り巻きに恥をかかされたジャンヌの前にジゴロのレトーという男が現れる。レトーはジャンヌに有力者を後ろ盾にするよう指南する。ターゲットになったのは王妃に嫌われ宰相になるないロアン枢機卿。謎の男カリオストロ男爵の手を借りながら、ロアン枢機卿に取り入ったジャンヌ。ジャンヌとレトーは次第に、共犯者以上の関係になっていく。

 そんな折、ジャンヌは宝石商に、ある高価な首飾りを、王妃に買い取ってもらうように話をつけてほしいと依頼を受ける。それは、大量の宝石を惜しみなく使った、この世に二つと無いものだった。そんな首飾りを買えるのは王妃マリー・アントワネットくらいなのだが、拒否されて困っているというのだ。ジャンヌはこれをロアン枢機卿を使って自分の物にしようと画策する。ロアン枢機卿を保証人に、王妃が首飾りを買い取ったという偽の契約をでっち上げたのだ。首飾りをまんまと自分の手中に納めたジャンヌは、それをバラして、宝石を売り払い、念願だった幼いころに失った自分の家を取り戻す。

 全ては順調に行っているように思えた。ロアン枢機卿が騙されたと気付いた時のためにの準備も周到に用意していた。ところが、そのことが逆に墓穴を掘り、思わぬところから首飾りの件は国王夫妻の耳に入り事件は発覚する。ロアン枢機卿は全てを話し、事件は瞬く間に衆目の知るところとなる。ジャンヌはレトーから一緒に逃げようと説得されたが、逃げることは彼女の誇りが許さなかった。「レトーにまでここに一緒に残れと言うわけにはいかない」というジャンヌに、レトーは「残れと言ってくれ」と言う。ジャンヌは司直の手によって逮捕される。カリオストロ男爵なども逮捕される。全く身に覚えのない事件に激怒した王妃は、ルイ16世など周りの反対を押し切って事件を公開裁判にし、公の場で申し開きをすることで事態の沈静化を図ろうとする。裁判で何が何でもロアン枢機卿を有罪にしようと、王宮の大臣はジャンヌに、ロアン枢機卿が共犯者であったと証言させようと裏取引を持ちかける。その時、ジャンヌは初めて念願であったマリー・アントワネットと言葉を交わした。そして裁判の行方は――。


【感想】

 ジャンヌ役のヒラリー・スワンクの好演が光る作品。フランス革命直前の揺れ動くフランスの様子と、このある種異様な事件とを上手く描き、良質の作品に仕上がっている。脚本上の演出で、実際の事件より分かりやすく単純化されているとはいえ、このような荒唐無稽なことが考えられ、実行に移されたということに驚きを感じる。と同時に、最後までこの事件の蚊帳の外にいながら、事件が発覚するや、大バッシングを浴びることになってしまったマリー・アントワネット王妃に、哀れを感じる。

 悪巧みを仕掛けている間は生き生きとした面白い物語だったが、事件が発覚しジャンヌらが逮捕されてからの裁判の場面が、ちょっと淡々としすぎているような印象を受けた。ジャンヌとマリー・アントワネットとの直接対決の場面もあっさりと終わってしまったな、という気がする。ジャンヌの悔恨の言葉で裁判は締めくくられるのだが、その言葉が、随分空虚に聞こえたのは、この先に起こる悲劇を自分たちが知っているからだろうか。マリー・アントワネットを断頭台に送ったのはジャンヌではないし、事件がなかったとしてもフランス革命は起きていただろう。それでも……と思う。