仮面の男(1998年)
DATE
THE MAN IN THE IRON MASK/アメリカ
監督 : ランダル・ウォレス
原作 : アレクサンドル・デュマ『
ダルタニアン物語 』(鈴木力衛(翻訳))
<主なキャスト>
ルイ14世/フィリップ : レオナルド・デカプリオ
アラミス : ジェレミー・アイアンズ
アトス : ジョン・マルコヴィッチ
ボルトス : ジェラール・ドパルデュー
ダルタニアン : ガブリエル・バーン
アンヌ王女 : アンヌ・パリロー
クリスティーヌ : ジュディット・ゴドレーシュ
アンドリュー : エドワード・アタートン
ラウル : ピーター・サースガード
……etc
【作品解説】
日本では1998年8月に劇場公開されたアメリカ映画。アレクサンドル・デュマの「ダルタニアン物語」の第3部にして完結編にあたる「ブラジュロンヌ子爵」の鉄仮面のエピソードを、ランダル・ウォレス監督が脚色して描いた歴史娯楽作。前年に公開されたアメリカ映画「タイタニック」で主演を務め、トップスターの地位に躍り出たレオナルド・デカプリオが、暴君と心優しい青年という一人二役の難役に挑んでいる。
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【鉄仮面伝説】
1669年に逮捕され、1703年に死去するまで仮面を付けられて牢獄に入れられていた囚人がフランスにいたという。ピネローロ監獄の監獄長サン・マルスに預けられたこの囚人は、マルスの転任に伴って移動させられ、サント=マルグリット島、パスティーユ牢獄に収監されたという。1703年11月19日に死亡すると「マルショワリー」という偽名で葬られたとされる。
その囚人の正体は多くの歴史研究家や作家の興味を引き、様々な仮説が唱えられた。宰相ジュール・マザランとルイ13世妃アンヌ・ドートリッシュの不義の息子、成功と栄誉を手にしながら政権批判をしたために追放された宮廷劇作家、王政復興期のイングランド王チャールズ2世の庶子、存在を消されたルイ14世の双子の弟、フランス最古の貴族の一つである名門カヴォワ家の奔放な元家長、不興を買って失脚した元将軍などなど。近年ではマザラン枢機卿の会計係であったユスターシュ・ドゥージェという人物が有力視されているというが、この囚人に関する史料は、その後のフランス革命やナポレオン戦争で散逸してしまったらしく、現在でも正確な正体は分かっていないという。
顔を隠した正体不明の囚人は、多くの作家らの興味を引き、アレクサンドル・デュマなどが小説のモチーフに取り込んだ。しかし、それらの小説などによってこの囚人は四六時中鉄製の仮面をつけられたまま34年間の収監生活を送ったように思われてしまった。この仮面は実際にはベルベット製のベールで、他人に会う時以外は外して生活していたという。過酷な牢獄暮らしというわけでもなく、衣食に関して、囚人としては厚遇を受けて生活していたという。おそらくは当時のルイ14世の指示だったのだろうが、同時に素顔を見せるようなことがあれば殺せという命令も出されていたという。そのため、その素顔は囚人の診療を行う医師ですら知らなかったという。
【ストーリー】
舞台は17世紀のフランス。かつて、リシュリュー枢機卿の陰謀を打ち砕いたダルタニアンと、アラミス、ボルトス、アトスの4人の銃士。彼らも年をとり、それぞれ思い思いの生活を続けていた。ダルタニアンだけが城に残って銃士隊長の任をこなしていた。若く自己中心的な国王ルイ14世の下、民衆の生活を省みない宮廷の贅沢のために、パリの市民には十分な食べ物がいきわたらず、たびたび暴動が起こっていた。暴動の首謀者はイエズス会だった。
引退したアトスの唯一の楽しみは一人息子のラウルの成長を見守ることだった。そのラウルも婚約者クリスティーヌに結婚の申し込みをすることを決めた。しかし、宮廷のパーティにラウルと共に参加したクリスティーヌはそこでルイ14世に気に入られてしまう。クリスティーヌを自分の物にしようとしたルイ14世はラウルを戦場の最前線に送り、戦死させてしまう。怒り狂ったアトスは宮廷に殴りこむが、すんでのところでダルタニアンに止められる。
民衆たちの苦しみも限界に達し暴動が巻き起こった。ダルタニアンは何とかそれを食い止めるが、民衆の苦しみを理解しようとしない国王に心を痛めていた。そんな折、久々に四人の銃士が集まった。発案者はアラミス。彼は、敬虔なカトリックであり、イエズス会のリーダーだった。イエズス会はルイ14世の命を狙っていた。彼は、ルイ14世を排斥する計画を打ち明け協力を求める。ダルタニアンはそれを断る。ダルタニアンにはある重要な秘密があった。ラウルの仇討ちを望むアトスはアラミスに協力することを約束する。
彼の計画はバスティーユ牢獄に捕らえられているある人物を救い出すことから始まる。それは、なぜか鉄製の仮面を付けられた若い人物だった。救出し、アジトへと連れ帰った3人は、仮面を外し、体を洗わせて髪を切って髭をそってやる。その下から出てきた顔に、ボルトスも、アトスも驚いた。その顔は、あのルイ14世と瓜二つだったからだ。アラミスは驚く彼らに、この青年がルイ14世の双子の弟・フィリップで保身の為にバスティーユ牢獄に入れられたのだと説明する。そして、フィリップとルイを入れ替えることがこの計画の骨子だと説明する。決行の日はヴェルサイユ宮殿で行われる仮面舞踏会の日。それまで残された時間は3週間。それまでに宮廷での作法をフィリップに教え込まなければならない。果たして計画は成功するのか? ルイには影のようにダルタニアンが付き身を守っている。そして、いよいよ、その日を迎えた。
【感想】
舞台となった17世紀――『朕は国家なり』で知られるルイ14世の治めるフランス。絶対王政が全盛期を迎え、きらびやかな宮廷文化が花開いた。しかし、貴族の腹を満たすために民衆からは過酷な税を取り立てていた。フランス革命の足音は未だ聞こえてはこない。そんな時代を、素晴らしいセットや衣装や音楽などで、うまく描いた良作だと感じた作品。
実際に存在した謎に満ちた囚人の正体をこの映画ではルイの弟フィリップとし、宮廷内の悲しい権力闘争を描いている。ルイ14世とフィリップの一人二役の難役に挑んだレオナルド・デカプリオは見事にこの役をこなしている。脇を固める4人の銃士も実力派の俳優ばかりで、大きな存在感を示している。しかも、それ以上にその存在感が、レオナルド・デカプリオの存在を沈めるのではなく遥かに高めている。
若く怖いもの知らずだった銃士たちも年を取り、様々なものを抱えるようになっている。それぞれの立場があるから衝突してしまうこともある。しかし、かつて銃士として正義のために戦った過去や、ともに命を預けあった仲間との絆まで失われたわけではない。"One for all, All for one"――誇りの言葉を胸に剣をあわせる姿は、「三銃士」の物語はこうでなくてはと思わせてくれる。